4月25日 榊原清音

 今日も変わらず、朝の納品と倉庫整理ッス。

 最初の頃は、丸一日かかってた作業ッスけど、今は一時間あれば余裕ッスよ。

 ……ちょっとずつ、ボクも“出来る女”に近づいてるッスかね?

 まだまだ小鈴先輩には及ばないッスけど、それでも日々成長してるッス!


 それにしても──

 こんなボクにも、ついに“後輩”ができたッス。

 南郷竜子ちゃん。二月の受験のときにここに来てたらしいッスけど……


 ……ボクだけ、会ってないッス。


 他の皆さんは、竜子ちゃんに勉強を教えたりしてたらしいッス。

 ボクだけ……いなかったッス。

 忘れられてたッス。

 いやいや、別に気にしてるワケじゃないッスけど。……ちょっと、だけ。


 嘉穂さんが「普通にゴメン」って、笑って謝ってくれたッスけど。

 うーん……なんか、モヤモヤするッス。


 ボクはいつも“普通”ッス。だから、“出来る女”になりたいッス。

 小鈴先輩みたいに、“本物の出来る女”に!


 


「清音さん!お手伝いに来ました!」


 元気な声と共に、竜子ちゃんが倉庫に入ってくる。

 まっすぐこちらに向かってきて、ちょっと眩しいッス。


「……もう終わったッスよ」


「えっ?」


 竜子ちゃんが目を丸くする。


「ちょっと時間かかりすぎッスよね」


「いやいや! 早すぎですよ!?」


 ……たかがトラック二台分、ダンボール五百箱くらいッス。

 大した量じゃないッスよ?

 竜子ちゃんに手伝ってもらうほどの仕事じゃ──


「小鈴に手伝ってこいって言われたんですけど……まさか終わってるなんて……」


「小鈴先輩が?」


 ……ボクの不甲斐なさに、竜子ちゃんを?

 そういえば、竜子ちゃんと小鈴先輩って、仲が良いッス。

 アニメとか特撮の話をしてるの、よく聞くッス。

 ボクも最近、一気見してるッスけど、話せるほど詳しくないッス。

 ……睡眠時間を一時間なんて取ってるからいけないッスね。

 今日からは三十分に減らすッス!


 


 仲が良い……?

 それってもしかして──

 竜子ちゃんも、小鈴先輩のことを……?


 ボクだけの小鈴先輩が、誰かの小鈴先輩になるなんて……! 


 


 胸の奥に、なんかこう、黒いモヤモヤが……。

 竜子ちゃんは危険ッス。今のうちに……!


 竜子ちゃんの背中に視線を定めて──


「清音ちゃん、終わった?」


 ……この天使のような声は──! 


 小鈴先輩!


 この無機質な倉庫に舞い降りた、天使。いや、女神ッス!


 今日も尊いッス。光が差し込んできたみたいッス……!


 


「納品終わったら一緒にお菓子食べようよ。竜ちゃんに手伝ってもらえばすぐだしさ~」


 ……信じられないッス。

 神過ぎッス。


 


「もう終わったってさ」


 竜子ちゃんが代わりに答えてくれる。


「なら早くお菓子食べよう」


 小鈴先輩がボクの手を引いてくれる。ああ……手が、あったかいッス……。


「やっぱり清音ちゃん、普通に終わらせてくれたねー」


 


 そこで、竜子ちゃんがぽつりとつぶやいた。


「……これが普通って……すごいんじゃないかな」


 


 ボクには、ちょっと何言ってるかわかんないッス。

 でも。

 ……今日の“普通”は、なんだかちょっとだけ、特別な気がするッス。

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