〈27〉大きな観覧車に乗って

日曜日は外に出掛けることにした。

まだ少し肌寒いけど、晴れている間は日差しは暖かい。


ちょうどバスが来たので2人で乗り込んだ。後ろの席があいていたので並んで座る。

「海に行こうか?」「行きたい!」


降りたバス停から砂がジャリジャリする赤いレンガの道を少し歩く。

低い建物の向こうに薄い灰色に霞んだ大きな水平線が見えてきた。

すっきりした少しだけ塩の匂いのする風を胸に吸い込んだ。


「とりあえずあの波打ち際まで行ってみよう」と、柘人たくと先輩。

でもやわらかい砂に足を取られて、歩きづらい。

「あ、砂が入った」と、靴を脱いで砂を払う。


低い波が砂をくるくる巻き込んで、行ったり来たりしているところを、ギリギリで濡れないように、2人も行ったり来たりしていた。

柘人先輩がこっちを振り返ったとき、早い波が足元を流れて、靴を濡らしてしまった。

2人で軽い奇声と、笑い声をあげる。


足跡のついてない白い砂地に、2人で並んで座った。

ほんのりあったかい。

落ちていた枯れ枝を拾って、○✕ゲームをしたり、何かないかと砂を夢中でほじったり、目の前にあるまぶしい空と海を、飽きることなく眺めた。


柘人先輩は私の手を握って軽くキスをした。

「今日は早めに家に帰ろうか」

私は軽く口を尖らせて、「うん」と言った。


海沿いのレストランに入って遅めのランチを取った。

窓の外に大きな観覧車が見えた。

「乗る?」と柘人先輩。「乗る!」


ゆらゆらと揺れながら大きめのワゴンが上昇して、どこまでも続くような晴れた海の景色に釘付けになった。


「離れたくない」と私が言うと、ほっぺにキスをくれて、頭を撫でてくれた。

「止められなくなるから我慢してる」「え?」と赤くなる私。

「だから許して」と、悪戯っぽく笑った。


そういえば兄はちっともLINEくれなかったな。

そろそろ妹ばなれしてもいいかもね。


柘人先輩と最寄りのバス停で別れて、「ただいまー」と家に入る。

母に「あら、珍しい。家に帰ってくるなんて」と嫌みを言われた。

「なにそれー」と言って、さっさと部屋に引きこもった。

お泊まり帰りだなんて、恥ずかしくて顔を合わせられない。

兄もじーっと睨みつけてきたけど、特に何も言わなかった。


「あんなに一緒にいたのにまた会いたい」と、柘人先輩にLINEした。

じゃあ、「僕も早く会いたい」と返事があった。

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