Episode:1-C —Magic—
私が教室に戻ってきた時にはもう2時間目が始まりうる時間であった。
教室に入った途端に笑い声がなくなって私を見つめる状況はやめてほしい。自分自身なぜ口走ったのかがわからなくなってしまう。
居た堪れなさを感じつつ席に戻ると、フィリンが私に小声で話しかけてきた。
「ねぇティオ、メスティア先生に何したの……? 1時間は説教されてたんだよね?」
「いや、そういうわけではなくて──」
体を弄られた、とはとても言えなくて私は濁すことにした。
「ま、まぁ……ちょっと面倒ごとに巻き込まれただけ」
「……嘘をついてそうな顔だけど」
「嘘は、吐いてないよ」
真実も言ってはいないけれども。
私の態度から諦めたのか、フィリンはこれ以上深く追求してくることはなかった。
時計を見ると、もう2時間目が始まる時間だった。
「お前らー、急遽時間割が変更になって外で実習になった。みんな持ってきてる杖だけ持って演習場に集まれー」
担当の教師が軽く報告だけしてまたどこかに去っていく。
いやそれより……
(ああああああああああ!!!!! 杖必要なの忘れてたあああああああ!!!!)
私の内心はおおよそ穏やかではなかった。
何せこの世界歴一日未満なのだ。元々当たり前だったことも忘れてしまっても致し方ないだろう。
その上『LoT』でも魔法を使うがその時杖だなんて使わなかった。
この世界でいう『無詠唱』に当てはまるらしいが、それには相当の魔法への造詣が深くなければならないらしい。
はてさて、ティオの前の主は『無詠唱』ができるほどの才能があるのかどうか、なのだが……。
「あれ、ティオ君。杖はどうしたの?」
「い、いや……。実は摩耗が激しくて修繕してもらってたんだ。だから持ち合わせがなくて」
「へぇ……じゃあさ!」
フィリンが私の手を掴み、微笑んだ。
「私の予備使ってよ!」
「いいの? フィリンのが壊れたら授業受けれないけど」
「それをいうならティオ君だって受けれないでしょ、今のままじゃ」
やんわりと断ろうとするも、強情なフィリンは私を離してはくれない。
普通なら即座に首肯したはずの提案に背こうとしているのかといえば、『LoT』のストーリーが関係する。
杖──本編でいう護身具なのだが──を交換する、という行為は言うなればプロポーズなのだ。
互いの持つ杖を交換し、二人で共に人生を歩み護りあっていく、という誓いの意味が込められているのだ。
だからこそ、心苦しいがここは退かなければ──
「ティオ君──使ってくれなきゃ、メスティア先生に有る事無い事話してあげる」
「何を言っているのフィリン」
「いや、脅し文句としては効果覿面かなって」
「ごもっともです」
フィリンの腹黒さに辟易しつつ、手を差し出す。
満面の笑みでフィリンは予備の杖を渡してきた。
「どうせならあげようか?」
「いや、その……修繕されるまででいいよ」
フィリンからの借り物をすぐ返すことに躊躇ってしまう自分がどこか憎らしい。
流石に変態的というかなんというか……。
「じゃあ私たち、いい成績とれるように頑張らないとね!」
「……うん」
杖の重要性を棚に上げ私は目の前の授業に集中することにした。
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