君と紡ぐ夢物語
世界を股にかけた大怪盗が死刑場から盗み出されるという事件から十数年が経った。
あれから数年は怪盗ミングはやはりずっと紙面を賑わせていた。というのも、盗んだ宝を持ち主に返して回ったためだ。その手口も盗み出すとき同様鮮やかで、記者は連日彼を追いかけたし、各国の警備隊も我が今度こそと躍起になった。けれど相棒の女の存在もあって彼らは捕まることなく、やがて表舞台から消えた。宝を返し終えたのだろう。
それからは彼らの消息は不明となり、ついに彼らの追跡を諦めざるを得なくなった。今頃どうしているのか、誰も知る由はない。
「いらっしゃい。」
入口の鈴が鳴り響いて来客を知らせた。顔を上げると見慣れた顔だった。
「なんだ、休日の昼間だってのに閑古鳥が鳴いてるぞ。」
「相変わらずの憎まれ口ね。」
呆れて苦笑すると向こうも笑った。
「今日は非番?」
「あぁ。それにしてもお前がまさか本当に刺繍やらレースやらを扱う店を始めるとはな。」
ジンは店内をぐるりと見渡して言った。あれからあの骨董品店は布屋へと姿を変えた。仕立てはできないので、仕立て済みのハンカチやスカーフといった布製品が看板商品だ。もちろん警備隊には怪しまれたが、証拠などない。知らん顔でのらりくらりと交わした。
「で、見せたい物というのはなんだ? 俺はこういった類の物を見ても良さは分からんぞ。」
立派な堅物になってしまったジンは腕を組んで眉を顰めた。そんな彼を見ると、堅物でない瞬間を知っている身としてはついつい笑ってしまう。
「ちょっと待って。」
奥からそれらを持って来ると、カウンターの上に順番に広げて見せた。
「質が良いのがあるって言うんで買い取った物なんだけど、素敵なのよ。」
「だから俺は分からんと…」
「まぁ見なさいよ。刺繍にレース編み、こっちは金糸の刺繍ね。それに国外の刺繍に織物。」
ジンはハッと息を呑むと顔を上げた。笑って頷いて見せると、ジンは優しく笑った。そしてそれらを優しく撫でた。
「腕を上げたな。」
「ええ。流通元は曖昧だけど、ウユのどこかに孤児院をやっている夫婦がいて、その夫婦が作った物らしいわ。」
「そうか。」
彼女が縫い編む姿を私たちは何度も見ていた。そしてそういったものには癖が現れるものなんだということも知っている。
「この金糸の刺繍…、ハンカチか?」
「そうよ。」
「模しているのは桜…か。」
「そうみたいね。」
ジンはそれを手に取ると優しく刺繍を撫でた。
「これをもらおう。」
「言うと思ったわ。」
私は首をすくめると一度それを受け取って丁寧に包装した。ジンはそれを抱えると久しぶりに見る優しい顔で店を出て行った。私は広げたままのそれらに視線を落とすと改めて糸をなぞるように刺繍を撫でた。
「元気で……幸せにやってるみたいね。」
二人の
-fin.
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