鞠谷はこれからどうしたい?

「・・・・・本当に、思った。

・・今更、私が・・・・

何を言っても信じてもらえないって。

それだけの事をして来たから。

でも・・・・戸倉君が、

私にもう一度チャンスをくれるなら、

それを・・・・・大切にしたい。

信じてくれるなら、・・・それに応えたい。

・・・・・愛しているから・・・

私を・・・・愛して・・・欲しい。」


俺は、鞠谷の頭を撫でて言った。

「よく、言えたな。

しかも、泣かずに言えた・・・な。」


泣き虫で、照れ屋の沙姫帆を、

知り過ぎる程、知っている暁は、

さっきの沙姫帆の頑張りを心底、

愛しいと思っていた。


泣かなかった訳ではなかったけれど、

それを我慢した事、

自分の事を気遣ったであろう態度が、

暁には、とても、愛しく嬉しかった。


「じゃあ、約束しよう・・・・な?

嘘は、絶対吐かない事。俺を信じる事。

隠し事をしない事。素直になる事。

それから、何でも俺に相談して欲しい。

どんな些細な事でも、話して欲しい。

一人で悩まない事。」


「はい。」

「俺も、・・・・沙姫帆に約束する。」


初めてだった、戸倉君が、

私を『沙姫帆』と、呼んだのは・・・

私は、顔が熱くなるのを感じる。

夜で、良かったぁ・・・


「沙姫帆も、俺に約束してくれ?」

「・・・約束します。」

「俺は、沙姫帆に約束するって言ったよな?

言葉が足らないんじゃないか、沙姫帆?」


「・・・戸倉君に・・・」

「それじゃあダメだ。」

「・・・・あ・・き・ら・君に・・・」

「君は、要らない。」


「・・・・・」

「誓えないのか?」

「・・あ。・き・・ら・に、約束します。」

「よく言えました。」


暁は、沙姫帆の頭をポンポンと撫でると、

沙姫帆が、膝に顔を埋めてしまう。

少し強引に、頭を持って、顔を上げさせる。

その後で、沙姫帆の顔を覗き込んだ暁が、

もっと深く覗き込んで言った。


「如何した?」

「・・・・」


沙姫帆は、何も言わなかったけれど、

表情を見て、俺は続けた。

「泣きたい時に、我慢するな。

さっきまでとは違うだろう?

側に俺が傍に居るのに、

ひとりで泣いてくれるなよ?

誰かの胸で泣くのって、良いと思うけど?

試してみろ、ほら?」


そのまま、暁は沙姫帆を自分の胸に抱いた。


きっと、沙姫帆は、今、泣きたいだろう。

俺は、そう思った。

沙姫帆は、声を出さなかったけれど、

俺のシャツが少しずつ、

暖かく、濡れていったので、

泣いている事は、分かった。


俺は、何も言わないで、

このままで居てやりたかった。

そして、このまま、抱いていたかった。

沙姫帆の軟らかい髪の感触や、

暖かい息の感触が、

くすぐったかったけれど、心地良かった。


結局、泣いちゃった。

戸倉君の腕の中、暖かい。

そう思うと、余計に泣けてきた。

我慢した分、後から後から溢れてくる。


トクントクンと、鼓動が伝わってくる。

何だか、安心する。

気の済むまで、泣いていいって、

言っているみたいで、余計、泣けてきた。

私の、我儘も、気持ちも、寂しさも、

『解っているよ』と、

そう言っている様で、嬉しかった。

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