第10話 姉妹の愛だよ、お姉ちゃん!
最初に向かったのは、500万年前のアフリカ。
先史時代、猿人が誕生したあたりだ。
この時代から、ヒトのオスとメスが子供を為すこと歴史が始まっているハズ。
それならまずは、そこを変える。
「莉乃。まずは同性でも子供を作れるように、人体構造を変えて。あと近親相姦をして子供を作っても遺伝子以上とかそういう問題が起こらないようにして」
「任せて! それぐらい、わたしの手にかかれば……!!」
深い森の中、眩い閃光が迸る。
即座に確認はできないけど……おそらくこれで、人類が同性や姉妹で愛し合ってもなにもおかしくなくなる。
それによって歴史が変わったりするかもしれないけど、よっぽどヤバそうな事態になった時だけ莉乃の魔法で歴史を正せばいい。そうすれば人類が滅ぶような事態にはならないだろう。
「お姉ちゃん、次はどの時代に行く?」
「次はもっと先、人類が文明を築いてしばらくしてからね。古代メソポタミア文明あたりまで行きましょうか」
「わかった! それじゃ、行くよっ!」
莉乃の魔法で、今度は古代メソポタミア文明までやってきた。
教科書で見たとおり、この頃にもなると人は文明的な暮らしをしていて、普通に街があったりする。
古代の街並みがどんなものか、正直ちょっと気になるけど……今は余計なことをやってる場合じゃない。
莉乃の魔法で気配遮断をしつつ、街の様子を軽く眺める。
すると500万年前に使った魔法がちゃんと効いてくれたみたいで、子供を連れている同性カップルが多く見られた。
……さて、本番はここからだ。
同性が自由に愛し合える世界なら、元の歴史でもいつかは実現できた。子供についても、科学が発展すればその内作れるようになったかもしれない。
しかし、近親相姦だけは話が別だ。
こればっかりは、人類の歴史を根本からイジらなきゃ、認めてもらえない。
となればどこをどうイジるか、なんだけど──
「ねぇ、莉乃。ギルガメシュ叙事詩って知ってる?」
「え? あー、世界史の教科書で見たことあったかも。それがどうかしたの?」
「そのギルガメシュ叙事詩、書き換えましょう。人類最古の英雄譚を、どうにかして姉妹愛の物語に変えるの。そうすれば、人類の近親相姦への考え方も変わるハズよ」
「ええ!? 書き換えるって言われても、わたし元の話をよく知らないんだけど……」
「それはあたしもそうよ。だから、とりあえず人伝に話を聞いて、その上で内容を変えるの。難しいかしら?」
「ううん、難しくなんかないよ! お姉ちゃんがいてくれれば、わたしはなんだってできるから!」
それから、あたしと莉乃は──古今東西の英雄譚や神話、さらには宗教の教えまでも、姉妹愛を肯定するように書き換えていった。
あの英雄も、あの神様も、実は姉妹。もしくは姉妹から生まれた子供。
かのアダムとイブでさえも姉妹だった……なんて風に、歴史を変えて回った。
そうして同性で子供が作れるようになったり、近親相姦が認められたりすれば、現代とのタイムパラドックスが起きたりもする。
そこももちろん、莉乃がなんとかした。
元々近親者でもない異性と愛し合い子を為す歴史だった人間に関しては、変化がないように。
そうすることで、本来の歴史から大きく外れないように、時間をかけて調整した。
そんなこんなで……紀元前、古代、中世、近世、近代といった人類の歴史すべてを変えて、あたしたちは現代に戻ってきた。
「ここは……あたしの部屋ね。莉乃、時系列はいつ?」
「お父さんにセックスしてるとこを見られて、お姉ちゃんが服を着たらリビングに行くって言ったところだよ」
「おっけー、それならちょうどいいわ」
あたしと莉乃は無事元いた時代に帰ってこれた。
それにあたしらが生まれなくなるようなタイムパラドックスも起きていないみたいだ。
今のところ、計画通り。
あとはお父さんとお母さんにあたしと莉乃のことを認めてもらえれば、ハッピーエンドだ。
「それじゃ行きましょ、莉乃。あたしたちの愛を、今度こそ認めてもらうために」
「うんっ! 今度という今度こそ、だね、」
身なりを整えて、あたしと莉乃はまたもリビングに向かった。
お父さんもお母さんも以前と同じく既にテーブルについている。その対面に、あたしたちは座った。
空気は……重い。体感では、前とそんなに変わらない。
姉妹で愛し合える世界になったハズなのに、なぜだろう?
少しばかり不安があるけど……今さら言うことを変えるわけにもいかない。
あたしは意を決して、話を切り出した。
「お父さん、お母さん。単刀直入に言うわね。あたしと莉乃は愛し合っているの。だから、莉乃と結婚させて」
「ぐぅ、結婚……結婚かぁ……」
お父さんはものすごく微妙そうな表情で唸る。
……この感じ、前とは違う。
前はこんな顔をするようなこともなく、ただただ怒鳴っていた。だから姉妹で愛し合える世界になったのは間違いないと思う。
じゃあ、この反応はなんなんだろう……?
そんな風に不思議に思うこと約十秒。
お父さんが、おもむろに口を開いた。
「な、なぁ結菜。結婚は、まだ早いんじゃないか? お前はまだ18だし、莉乃は16だろう? 結婚とかは、もう少しゆっくり考えても……」
……ああ、なるほど。
姉妹で結婚することに関しての否定は、してこない。そうならないように歴史を変えてきたんだから。
ただそれでも、父心ってものは変わらず残っている。
ま、そりゃそうよね。
長期旅行から帰ってきたら、高校生の姉妹が急に結婚するなんて言い出したんだから。
「娘さんをください」って言葉に対して「娘はお前にはやらん!」って返したりするヤツみたいな感じで、きっとお父さんは子供が巣立っていくのが寂しいんだ。
お父さんの気持ちもわからなくはない。それに結婚はもっとゆっくり考えればいいってのも、あたしが一ヶ月前に莉乃からプロポーズされた時とまったく同じ言葉だ。
ただ、それでも。今のあたしは、すぐに莉乃と結婚したいって思ってる。
今さら結婚まで数年待つなんてしたくない。
胸の中で熱く滾って止まないこの想いを――早くたしかな形にしたい。
そのためにも、あたしはお父さんに頭を下げる。
「莉乃のことはあたしが絶対に幸せにするわ。世界中で一番幸せな妹に、そして妻にしてみせる。だからどうか、あたしと莉乃の結婚を認めて、お父さん」
「わたしからもお願い! わたしを幸せにしてくれる人はね、お姉ちゃんしかいないの。お姉ちゃん以外、なにもいらないの。だからどうしてもお姉ちゃんと結婚したいの! 今すぐ、早急に!」
「し、しかしだなぁ……。そりゃあ姉妹で結婚するなんてめでたいことだし、俺だって祝福してやりたいよ。けどお前らはまだ高校生だぞ? そういうのはもっと段階を踏んで、ゆっくり考えるべきだと思うんだが……」
「……いいじゃないの。二人が決めたことなら」
渋い顔をするお父さんの肩に、お母さんがそっと手を置いた。
「結菜と莉乃は姉妹なのよ。莉乃が生まれてからの十六年間、二人は姉妹としてずっと一緒だった。それだけの時間があれば、今さらこれからお互いを知っていこうなんて時間を設ける必要はないじゃないの。それに――」
お母さんは、あたしと莉乃に優しく微笑みかける。
「結菜なら絶対に莉乃を幸せにしてくれるって信じてるし、莉乃なら絶対に結菜を幸せにできるって、そう思うもの。だから、私たちがとやかく言うのは野暮ってモノよ、お父さん」
「…………はぁ。ま、たしかに母さんの言う通りだな。俺だってお前たちを信じてないわけじゃない。ただ、娘が同時に結婚しちまうってのが寂しいだけさ。そしてそんな感情よりも、もっと優先するべきものがあるよなぁ」
お父さんはお母さんと顔を見合わせて――あたしと莉乃に、とびきりの笑顔を送る。
「幸せになれよ、結菜、莉乃」
「ええ!」
「うん!」
かくして――あたしと莉乃の愛が、お父さんとお母さんにも認めてもらえた。
人類姉妹百合計画なんていう歴史改変をしたりもしたけれど。
それでも無益な血を流したりすることは一切なく、姉妹(あたしたち)はハッピーエンドをもぎ取ったのだった。
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