第9話 人類姉妹百合計画だよ、お姉ちゃん!

「結菜、莉乃! 変な声が聞こえると思ったら……お前ら、姉妹でなにやってんだ!」


 時間が巻き戻り目を開くと、ちょうど莉乃とセックスしてる現場をお父さんに見られたところだった。

 ……たしかにお父さんとお母さんが殺される前まで時間を戻してとは言ったけど、さすがにもう少しタイミングってものを考えてほしい。

 とはいえ、今さら莉乃にもうちょっと前まで時間を戻してなんて泣きつくわけにはいかない。

 お姉ちゃんとして、莉乃を守るって誓ったんだから。


「お父さん、勝手に部屋に入って来ないでよ」


 わざとらしく裸身を手で隠しながら、お父さんにジト目を向ける。

 ……姉妹でセックスしていたっていう点については、お父さんに叱られても仕方がないようなコトだ。

 でもそれはそれとして、女子高生の娘の部屋に勝手に入ってきた点については、お父さんにも非がある。

 見え見えな論点ずらしだけど……どうやらお父さんには聞いたらしい。


「か、勝手に入ったことは謝る。しかしだな、姉妹でそういうことをするのは――」


「わかってるよ、お父さんの言いたいことは。あたしから説明するから、とりあえず出て行ってもらっていい? 服着たらリビングに行くからさ」


「む……わ、わかった。俺からも話があるからな。すぐに来るように」


「はいはい、言われなくてもすぐ行くよ」


 ドアが閉じられ、お父さんが去って行く。

 その一部始終を見ていた莉乃が、「すごい!」と目を丸くした。


「お姉ちゃん、やっぱりすごいよ! 自然に会話をリードして、主導権を握っちゃうなんて……!」


「褒めるのはまだ早いわよ。本当の戦いはこれからなんだから。さ、莉乃もさっさと服着なさい」


 ……そう、まだまだ喜んでいられない。

 セックスをしてる際中っていう、この世で最も話し合いで勝ちにくい状況から脱したってだけにすぎないんだから。

 あたしは気を引き締めて身なりを整え、莉乃と共にリビングに向かった。

 四人掛けのテーブルには、既にお父さんとお母さんが席に着いている。

 二人に睨まれながらも、あたしと莉乃はその対面に座った。


「お父さんとお母さんに、伝えなきゃいけないことがあるの」


 座って間もなく、お父さんよりも先にあたしは口を開く。


「あたしは――莉乃と愛し合っているの。ただの姉妹以上の意味で、一人の女として」


 最初はこんなコト、思ってなかった。

 莉乃に抱いてる感情は、ただの姉妹愛でしかなかった。

 だけど、今は違う。

 一人の女として、莉乃のことを愛している。

 散々キスやセックスをして、世界を滅ぼされたりして……その上であたしが出した答えが、それだった。


「愛し合っている、だと……? ふざけるな! 姉妹で愛し合うなど、許されるわけがないだろう!」


 いつか莉乃にしたのと同じようにお父さんが怒鳴る。

 こうなるのは当然想定済みだ。

 あたしは一切臆することなく、真っ直ぐお父さんの目を見て言葉を紡いでいく。


「そうね。近親相姦は許されないものだって、あたしだって知ってるわ。でも、人が人を愛する気持ちはどうにもできないでしょ?」


 真剣な声でそう問いかけると、お父さんはわずかに唸った。


「だとしてもだな……母さん、なにか言ってやってくれ」


「……結菜、莉乃。もう一度よく考えてみなさい。あなたたちはきっと、一時の気の迷いで姉妹愛を恋愛感情だと思い込んでいるだけなのよ」


 淡々と諭すようにお母さんが言う。

 一時の気の迷い、か。

 お母さんがそう思ってしまうのも無理はない。

 しかしそれなら、あたしと莉乃がどれだけ本気かを伝えるだけだ。


「違うわ。あたしと莉乃は本気で愛し合ってる。結婚だってしたいって思ってるんだから」


「け、結婚だと!? バカ言うな、そんなのムリに決まってるだろう! 同性婚ってだけなら認めてくれる国もあるだろうがな、姉妹での結婚なんて絶対に不可能だ!」


「知ってるわよ! だけどあたしは、それぐらい本気で莉乃のことを――」


「認めん、断じて認めん! 姉妹で愛し合うなんてありえないに決まってるだろう!」


 お父さんはテーブルを強く叩いて首を振る。

 正面から説き伏せるのは……やっぱり難しいか。


「……お姉ちゃん。やっぱり話し合ってもダメなんだよ」


 テーブルの下であたしの手を握りながら、莉乃が小声でささやく。

 ……たしかにそうね。ただ普通に話し合うだけじゃ、認めてもらうことはできないかも。

 でもそれなら、あたしには考えがあった。


「たしかに今はそうかもしれない。けど、それならそれであたしに考えがあるわ。莉乃、歴史を変えましょう」


「え、歴史? なになに、どういうこと?」


 きょとんと首を傾げる莉乃に、あたしが思いついた秘策を伝える。


「あんたの魔法で古代にタイムスリップして、近親相姦や同性愛が認められるように人類の歴史を変えるのよ。そうすれば誰も殺したりしないで姉妹で愛し合える世界を作れるでしょ」


 そう──近親相姦が認められないのは、遥か昔からそう決まっているからだ。

 だったら歴史を変えればいい。

 近親相姦が許されて、姉妹で愛し合うことがごく自然なことだって全人類が思うように。

 そりゃ近親相姦だと遺伝子に以上が発生しやすいとか、女同士じゃ子供を作れないとか、そういう問題も色々あるだろうけど……それなら、そういう問題が全部解決するように全人類の身体を作り変えてしまえばいい。

 姉妹で、女同士で、結婚だって子作りだってできる。そんな世界にしてしまえばいい。

 莉乃の魔法を使えば、そんな夢物語だって実現させられるんだから。


「す、すごい……! すごいすごいすごい! さすがわたしのお姉ちゃん、わたしじゃ思いつかない天才的発想だよ! これぞ人類姉妹百合計画だねっ!」


「人類姉妹百合計画って……なんかとてつもなく壮大なようで、そうでもないようなネーミングセンスね……」


 全人類が姉妹で愛し合うことを肯定するように世界を変えるんだから、まぁ意味合いとしちゃその通りなのかもしれないけど。それにしたってツッコミどころがある名前だ。


「ま、名前はなんだっていいわ。善は急げ、早速歴史を変えに行くわよ、莉乃」


「うんっ!」


 あたしは莉乃の手を取って立ち上がった。

 そしてお父さんとお母さんに奇異の視線を向けられながらも……自信満々にこう宣言する。


「お父さん、お母さん。あたしたち、ちょっと世界を変えてくるわ」


「だから、次に話す時はわたしたちの愛を認めてね」


「おい待て、お前らいったいなにを──」


 わけがわからないといった顔をしてるお父さんとお母さん。

 そんな二人を残して──あたしと莉乃は、歴史を変えるべく過去に飛んだ。

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