ナイトライツ 怪獣少女は名もなき英雄になりたい

北園れら

序章 怪獣少女と薄明光線

プロローグ 流れ星の夜

 ──これは、私と相棒のための物語である。


 雲の切れ間から覗く青白い流れ星に見惚れていたあの日は、思えばそれが人生で第一の岐路だった。


灯里あかり。お父さんな、今からお仕事に向かわなくちゃいけないんだ」


 窓の向こうでサイレンが鳴り響き、テレビのニュース速報はしきりに更新されていく。柔らかな笑みで緊張感を隠しながら、父は私の頭を撫でた。


「もう行っちゃうの?」

「ああ。せっかく灯里のために休みを取ったんだけどな。ごめんよ」


 警察官である父の手は傷だらけで分厚く、暖かかった。どのような・・・・・ものであれ、災害から市民の命を守るのは警察官の使命だった。


「悪いかいじゅうをやっつけにいくの?」

「ううん、僕の仕事は人を守ることさ。だから灯里はお母さんのそばにいて欲しい。僕の代わりにね。良い子で待っていてくれるかい?」

「……うん」

「ありがとうな。帰ってきたら誕生日パーティを一からやり直そう」


 ケーキもプレゼントも新しいのを用意しよう。迷ってたおもちゃも全部買っちゃおうか、と父は笑った。


 身支度を済ませると、父は私の赤みがかった柔らかい髪の毛、頬のふっくらした感触、それから抱きかかえた時の重みまで名残惜しそうに確かめた。

 そして目を瞑り祈るように何度も「愛してる」と言った。


「行ってらっしゃい、お父さん。待ってるからね」

「……うん。行って来ます」


 それが最後の会話になるなんて、私はほんの少しだって思ってはいなかったんだ。


 八歳の誕生日の夜、父は被災地で事切れた。


 怪獣災害の夜だった。


 雨の降りしきる真冬の泥の中で縮こまった姿で見つかった父の顔を見ることは叶わなかった。朧げな記憶の中でその面影を薄めていく一方だ。


 残してくれた言葉の裏にどれだけの想いがあったのか、それすらわからないまま私は大人になろうとしている。


 物語が始まるあの日もまた、流れ星の夜だった。──少なくとも、私にとっては。

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