第26話

「久しぶりね、魔王アデル、それにくたばり損ないの聖女エアリス」


 村人たちに守られるようにしてシリーが顔を歪めて笑っている。……あれ?


「なによ、何をそんなに見てるのよ気色悪い」


 ついシリーの顔をじっと見つめてしまっていたら、私の視線に気づいてシリーが不機嫌そうに言ってきた。


「顔が、斑点がなくなってるなと思って」


 アデルの心臓を掴んだ代償として、シリーの腕から顔中にものすごい数の斑点が浮かび上がっていたのに、綺麗に無くなっている。


「デモスが消してくれたの。私の可愛い顔が台無しだって綺麗に跡形もなく消してくれたのよ」


 頬に片手を添えてうっとりとした顔で言うシリー。


「確かに、とても可愛い顔に戻ってるわ」


 シリーは性格には難があるけれど顔は本当に可愛らしくて、みんなが虜になるのもわかるなと思っていたから思わずそう言うと、アデルもシリーも唖然として私を見ている。ん?何か変なこと言った?


「な、何?ふざけないで、そんなおだてたこと言っても見逃してあげないわよ」

「別におだててなんかいないけど。あなたのこと、出会った時からとても可愛らしいと思っていたもの。こんなに可愛い子は見たことないって思ったわ」


 純粋に思っていたことを言うと、シリーはさらに驚いた顔をして、アデルはクックックッと笑い出した。え、なんで驚いてるの?なんで笑ってるの?


「へ、へぇ、そうでしょう、私、可愛いのよ!誰よりも可愛くて愛らしく、みんなから敬られる存在なのよ!」


ふふん、と胸をはって自慢気に言うシリーを見て、私は思わずぽつりとつぶやく。


「……でも、だからこそなんでそんなに歪んだ顔をするの?せっかくの可愛い顔がそれこそ台無しだわ」


 こんなに可愛いのに、シリーの顔はいつも歪んでおどろおどろしいものを醸し出している。せっかくの愛らしい顔がまるでおぞましく感じられてしまうんだもの。


 そう思っていたことを口にした瞬間、シリーの顔がさらにおぞましくなった。


「は?」 


 こ、怖い!どうしよう、もしかして余計なことを言ってしまった?!シリーの恐ろしすぎる気迫に心臓がドッドッと嫌な音をたてている。


「だ、だって、前国王と戦いの話をしている時も、私を王国から追い出した時も、アーサーを人質にした時も、あなたの可愛いらしい顔はどこにもなくて、とても恐ろしい歪んだ顔になっていたのよ。本当はあんなに可愛い顔なのに……」


 私の言葉を聞きながら、シリーは顔を引きつらせて私を凄まじい形相で見てる!だ、だからその顔!


「……はぁ、やっぱりあんたみたいな女は大嫌い。せっかく命だけは助けてあげようかと思ったけど、気が変わったわ、やっぱりお前は、殺す!」


 そう言って、シリーは近くにいた村人の肩に突然剣を突き刺した!


「……はぁ、やっぱりあんたみたいな女は大嫌い。せっかく命だけは助けてあげようかと思ったけど、気が変わったわ、やっぱりお前は、殺す!」


 そう言ってシリーは近くにいた村人の肩に剣を突き刺し、さらに他の村人にも次々と切り掛かっていった!


「ぎゃあああ!」


 次々に村人が血を流して倒れていく……どうしてこんな酷いことができるの!?シリーは嬉しそうに笑い声を上げながらどんどん村人に切り掛かっている。


「あははは!あんたのせいよ!あんたが私の機嫌を損ねたからこいつらこんな目にあってるの!生かしておいた方が聖女が戦う時に困るだろうからってデモスは言ってたけど、そんなの知ったこっちゃないわよ!こうした方がショックでしょう?ねえ、心優しい聖女様!」


 高笑いをしながらシリーは剣を振り返り血を浴びている。村人たちは操られているから抵抗もできずにただ叫び声を上げて地面に倒れていく……酷い、酷すぎる!


「もうやめて!こんなことしても意味がないわ!」

「意味ならあるわよ!あんたのその悲壮な顔が見れるんだから!」


 シリーが嬉しそうに笑ってそう言ったその瞬間、村人たちの体が光り出し、一瞬で消えた。


「っ!何!?」

「お前の行いは見るに耐えない。美しくない」


 嫌悪感丸出しの顔でシリーを見つめ、アデルがそう言った。


「安全な場所に転移させておいた」

「アデル……!でも、みんな瀕死の状態よ」

「大丈夫だ、転移先にカイたちがいる。治癒魔法や蘇生魔法で対応するだろう」


 アデルの言葉にホッとする。よかった、村の人たちは無事なのね!


「余計なことしないでよ、このくそ魔王が!」


 シリーがそう言って剣を振ると、剣についていた血が散る。ギリギリと歯を食いしばりながら恨めしそうな目でアデルを見ていたけど、フッと表情が変わってまた穢らしい顔で笑い始めた。


「まあいいわ。楽しかったし、もっと楽しいことがこれから起こるから」


 そう言ってシリーは持っていた剣を投げ捨てた。一体、今度は何をするつもりなの?シリーがしようとすることなんてきっとまた酷いことに決まっている。不安になってシリーを見つめていると、アデルが私の肩をぎゅっと抱き寄せた。


「アデル……」

「大丈夫だ、何があってもお前を守る。あのクソ女は早々に片付けるから心配するな」


 アデルに触れている箇所が温かい。その温かさに不安がほんのりと溶けていく気がする。ホッとしてアデルを見上げると、アデルは頼もしい顔つきで微笑んでいた。


「そんな強気なこと言っていられるのも今のうちよ、魔王アデル」


 シリーはそう言って卑しい笑みを浮かべ、自分の胸元に手を置いた。すると、シリーの体が輝き出す。シリーの体が浮かび上がると、シリーの胸元から剣が現れた!あれは、まさか……!


 体から剣を抜き出すと、シリーの体の光は消えた。でも、シリーの手にある剣は神々しいまでに輝いている。


「聖女の聖剣……!」

「そう、聖女しか扱うことのできない、聖女から生まれるたった一つの聖剣。例え魔王であっても聖女から生まれたその剣の力には抗うことはできない。そうでしょう?」



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