第22話 見知らぬ子供
「何をそんなに怒っているんだ」
城に戻ってきてアデルの部屋に連れてこられた私は、ソファに座って黙り込んでいた。アデルがそう言って私の顔を見つめる。
「別に、怒ってるわけじゃないけど。あんなにしおらしかったのに急にキスしてくるなんてひどいじゃない!しかも、あんな、あんな……」
あまりにも熱烈なキスで思い出しただけでまた顔が熱くなる。両手で顔を覆っていると、クスクスとアデルの笑い声がする。
「お前は本当に可愛らしいな。本気で閉じ込めてしまいたくなる」
笑っていたかと思うと、急に真剣な顔で見つめてきた。ゾクリとするほどの鋭い瞳。
「……どうしてアデルはそんなに私にその、執着するの?そこまであなたに思われるなんて思いもしなかったのだけど」
首をかしげてそう言うと、アデルはむかえに座っていたソファから立ち上がり、私の横に座った。
「お前と初めて会った時のことを覚えているか?」
「私が聖女になって初めて戦場に出た日のこと?」
「どんな聖女かと思って戦場に足を運んで見れば、お前は敵も味方も関係なくひたすら治癒魔法をかけていただろう。そして、王国の連中に怒られていた」
見られてたんだ?!ちょっと恥ずかしい。とにかく傷ついている兵士も魔獣も見ていられなくて、手当たり次第に治癒魔法をかけてたらさすがに怒られてしまったのだ。
「怒られてからふらふらと一人で戦況から離れ、何をしにいったのかと思えば、親の魔獣とはぐれた子供の魔獣を見つけていただろう。親の魔獣を探して威嚇されてもひくことなく、子供の魔獣を返してあげていた」
「親の魔獣は最初私に子供が連れさらわれたと勘違いしてたけど、子供の魔獣が私に懐いてくれてたからすぐに誤解は解けたの。あの時は見つかって本当にホッとしたわ」
あの時のことを思い出して嬉しくなり、つい頬が緩んでしまう。アデルはそんな私を見て優しく微笑んでいた。
「敵の魔獣に優しくするなんて、随分とおかしな聖女だと思った。その後も、戦場で見かけるたびに王国側も魔族側も被害が少なくなるような戦い方をしていて驚いたものだ。そして、妙に気になった」
そんな風に思ってくれてたんだ。なんだか意外だしこそばゆい。
「そんなお前が、突然森の中で死にそうになっていたんだぞ。話を聞けば王国に捨てられたなどと言う。それなのに、王国に対して恨み言を言うでもなく、ここで過ごすのが心地よいとまで言い出した。出会う者皆がお前に惹かれ、慕う」
そう言って、アデルは私の手を取ってぎゅ、と握りしめた。
「最初はからかう程度のつもりだったが、他人を思い何事にも一生懸命なお前から、いつの間にか目が離せなくなっていた。いつの間にか、お前を独り占めしたいと思うほどになっていた。こんな気持ちになるのはお前だけだ」
アデルはそう言いながら私の手を取って甲にキスをする。
「これが俺のお前に対する気持ちだ。わかったか?」
「う、うん、わかった」
自分から聞きたいといったくせに、いざ聞くとなんだか恥ずかしい。俯いて気持ちを落ち着かせていると、アデルがまた手を握りしめる。
「お前の気持ちはどうなんだ?お前は、俺をどう思っている」
じっと真剣に見つめられ、そう聞かれてしまうけれど、言葉に詰まる。私は、アデルのことをどう思っているのだろう?
からかわれているだけだと思っていたけど、いつの間にか本気で私に執着しているアデル。嫌な気持ちはしないし、なんなら嬉しいとさえ思える。この気持ちは、一体何?
「私は……」
口を開きかけた時、ドアがバン!!と勢いよく開いた。
「アデル〜!」
突然、部屋に小さな子供が入ってきてアデルに駆け寄ってきた。そして、アデルに抱きつく。
わあ、とても可愛らしい子供……って、え、子供?
「アデル〜!」
「なんだ、久しぶりだな」
突然部屋に入ってきてアデルに抱きついた男の子。白銀色の髪にアメジスト色の瞳で、見た目は幼いながら既に美男子なのがわかる。
「こんにちは!」
アデルの隣りにいた私に気づいて、男の子はにっこりと微笑んだ。すごく可愛い!
「こんにちは」
私も思わずにっこりと微笑んで挨拶すると、その男の子は私の顔を見て目を大きく開くと、すぐにアデルを見た。
「アデル、僕、大きくなったらこの女と結婚する」
「は?何を言っている。エアリスはだめだ。俺の……」
男の子の発言にアデルが怪訝そうな顔をする。そして何か言いかけたその時、今度は女性が入ってきた。
「ルカ!勝手に入っちゃだめじゃない!……って、あら」
すこしウェーブかかった長い淡桃色の髪の毛にアメジスト色の瞳のその女性は、私の顔をみて少し驚いた顔をする。
「おい、野放しにするな」
アデルはそう言って男の子を抱えて女性の元に歩き、その近くに男の子を降ろした。
「ごめんなさい。久しぶりに来たからはしゃいでしまって」
その女性は、アデルを見てふわっと嬉しそうに笑った。すごく綺麗な人……!魔力を感じるし魔王城に出入りできるくらいなのだから魔族なのかな。ぼんやりと見つめていると、その女性と目が合う。
「あなたが聖女エアリスね。初めまして。アデルがいつもお世話になってます」
そう言って微笑み、アデルの腕に自分の腕をからみつけた。
「おい、くっつくな」
「だって、アデルったら中々会いに来てくれないじゃない。これくらい許してよ」
そう言って擦り寄りながら豊かな胸をアデルの腕に押し付けてる。いいなぁ、同性の私から見ても羨ましいくらいスタイルが良い。アデルと並ぶと美男美女だ。おまけに可愛らしく将来イケメン間違いなしの小さな男の子までいる。
もしかして、この女性と男の子……。
ズキン、と胸が痛んだ。そして、ここにいてはいけない気がして、私はソファから立ち上がる。
「私、そろそろおいとましますね」
笑顔を作ってそう言うとアデルの顔を見ないようにしてそそくさと部屋から出ようとする。
「おい、エアリス!」
背後からアデルの声が聞こえてくるけれど、振り返らずに前だけを見て部屋から出る。そして、廊下をひたすら歩いていく。
歩いて、歩いて、歩いて、どのくらい歩いただろう。気がつくと中庭に出ていた。
「はぁ……」
中庭にうずくまり、息を大きく吐く。さっきの光景を思い出すと、また胸が痛んだ。
あれはきっと、アデルの奥さんと子供なんじゃないのかな。
アデルの私に対する気持ちを聞いて、純粋に嬉しいと思った。なのに、アデルには大切な家族がいる。
そっか、前にカイさんが魔族は別に一人に決めなくても良いのだということを言っていた。きっと、アデルにとって私もそういう対象の中の一人というだけなんだ。
そもそもアデルに奥さんと子供がいてもおかしくないのだし、幸せならとても良いことだ。なのに、どうしてこんなに胸が痛いんだろう。
アデルから向けられた言葉も、笑顔も、仕草も、思い出すと嬉しくて悲しくて胸が締め付けられる。
そっか、私、いつの間にかアデルのこと……。今更気がつくなんて。
「馬鹿だなぁ……」
「何が馬鹿なんだ?」
突然背後から声がして振り向くと、そこには後ろでひとつに束ねた白銀色の髪の毛を風にゆるりとなびかせたカイさんがいた。
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