第21話
「はぁ〜なんだ、バレてたか。まぁ想定内ではあるけど、エアリスなら簡単にこっちに来てくれるかなって淡い期待をしてたんだけどな」
バランはさっきまでの控えめで大人しそうな顔は消え、ニヤリと嫌な笑みを浮かべている。やっぱり、シリーたちの仲間だったんだ!
「エアリスをバカにした態度、後悔させてやる」
アデルがそう言ってふん、と鼻で笑うと、バランは鞘から剣を取り出した。
「ははは、やろうっての?いいねぇいいねぇ!殺し合おうぜ!俺はお前を倒してエアリスをもらっていく」
そう言ってバランは私を見ながらゲスい笑みを浮かべている。さっきまでのバランと全然違う、気持ち悪い!
「あの二人に渡す前に俺がエアリスを好きにしてもいいよなぁ?無理矢理犯して、可愛らしいその顔を苦痛と恐怖に歪めたらどんなにいいだろうな。想像しただけでゾクゾクする。そうだ、その後にあの二人と一緒にさらに滅茶苦茶にしてやろう!やばいな、興奮してきた」
気持ちの悪い笑みにハアハアと荒い呼吸。一体何を想像しているんだろう、本当に気持ちが悪い。これがこの男の本当の姿なんだ。
「と、いうわけで魔王にはここで死んでもらうよ」
バランがそう言った瞬間、目に見えない速さでアデルの目の前に現れて剣を振り下ろす!
キィン!!
アデルはいつの間にか片手に剣を出現させて、バランの剣を受けた。剣と剣がぶつかり合う衝撃で周囲に暴風が吹いた。
「アデル!」
バランの動きが速すぎてアデルはバランの剣を避けたり受け流したりするだけになっている。バランは勇者の力を持つだけあって、やはり強いのかもしれない。どうしよう、アデルが負けるわけない、そう信じているのに胸が苦しくて張り裂けそうだ。
バランの剣を受けていたアデルの足元が一瞬ぐらついた。それを見逃さなかったバランがアデルに剣を向ける。
アデルが地面に倒れこみ、バランの剣がアデルの胸元で止まった。
「ははは、こっちの世界の魔王は大した事ないんだな」
そう言ってアデルの胸元に剣を突き刺した、ように見えた。
「どこを見ている。それは残像で俺はこっちだ」
アデルがそう言った瞬間、バランの口から大量の血が吐かれる。
「ガハッ」
バランの背後にアデルがいて、アデルの剣がバランの胸元を突き刺していた。
「な……ぜ……いつの……間……に……」
バランは口から血を流し振り向きながらそう言って地面に倒れ込む。
「急所は外した。死ぬギリギリ手前で出血が止まるよう回復魔法もかけておいた。俺はお前が死のうがどうでも良いが、ファウスたちが納得しないだろうからな。それにあの二人の情報もお前から吐かせなければならない」
地面に突っ伏しながら血を流しているバランの目は朦朧としていて焦点が合っていない。死なせないと言ってはいたけれど、ギリギリの所で生かしておくアデルの残虐さが伺えた。
「それに、お前はエアリスで良からぬ想像をしただろう。俺はそれが許せない」
バランの髪の毛を掴んでアデルはバランを覗き込む。その顔は憎しみに満ちていて恐ろしいほどだ。
「全てが終わったらお前の記憶からエアリスを消す。お前の記憶と想像の中にエアリスがいるだけで腹立たしい」
そう言って、バランの頭を地面に叩きつけた!叩きつけられた頭から血がドクドクと流れている。バランは相変わらず焦点の定まらない目をしているが息はしているようだ。
「ア、アデル!もうやめて!」
私がそう言うと、アデルはハッとして私を見て、苦しそうな表情をした。
禍々しいほどの殺気を纏ったアデルに声をかけると、アデルはハッとした顔で私を見つめる。それからすぐに目を逸らして地面を見つめた。
「……カイ、近くにいるのだろう」
「おう、バレてたか」
突然、カイさんの姿が現れる。
「それにしても、エアリスのこととなると本当にやばくなるんだな、驚きを通り越して呆れた」
バランの惨状を見てカイさんはため息をつく。そんなカイさんを一瞥して、アデルは口を開いた。
「この男を拘束して魔王城の地下牢に繋いでおいてくれ」
「はいはい、わかりましたよっと」
そう言ってカイさんが私を見ながらウィンクすると、指をパチンと鳴らした。その瞬間、カイさんとバランの姿がその場から消えた。
さっきまでの戦いが嘘だったかのように、その場が静寂に包まれる。この後アデルに何て声をかけたらいいだろう。悩んでいると、アデルがゆっくりと私の方へ歩いてきた。
「エアリス、俺が怖いか?」
「え?」
そう尋ねてくるアデルの顔は、先ほどまでとは打って変わって悲しそうで痛々しい。いつもの私をからかって楽しんでいるような余裕そうな顔はどこにもない。ただただ私を見て悲しそうに不安そうにしている。
「お前のこととなると、正気を失いそうになる。本当であればあんな男、あの場で始末してやりたかった」
自分の掌を見つめてからぎゅっと拳を握る。その拳から血がじわじわと滲み出ていた。アデルは、自分の手に爪が食い込むほどにその手を握りしめている。
「アデル、血が出てる!」
私は慌ててアデルに駆け寄って手を無理やり開き、治癒魔法を施した。
「確かにいつもと違ってびっくりしたけど、別に怖いとは思わないわ。それに、私がやめてと言ったらやめてくれたでしょう?だから、大丈夫よ」
アデルの心が少しでも和らげばいい、そう思ってアデルを見て微笑む。そんな私の顔を見て、アデルもほんの少しだけ悲しそうに微笑んで、私を抱きしめた。
「アデル……?」
「どうしたらお前を独り占めできる?お前を閉じ込めて誰の目にもつかないようにしてしまいたい。お前を見て邪な考えを抱くような奴は全員殺してしまいたい。お前に危害を加えようとする奴も全員だ」
ぎゅっ、と私を抱きしめる腕に力がこもる。いつもは余裕そうなのに、アデルの気持ちがこんなにも複雑で重いものだなんて思わなかった。自分がこんなにもアデルに思われているだなんてやっぱり不思議だ。
よしよしと背中を撫でてあげる。こんなことでアデルが落ち着くかどうかはわからないけれど、何て言葉をかけてあげればいいのかもわからないから、こうするくらいしかできないのだ。
はあ、と大きなため息が聞こえた。少しは落ち着いたのかな?そう思っていると、アデルが静かに体を離して私の顔を覗き込んだ。綺麗なオーロラの瞳が私をじっと見つめている。そして、その顔がいつの間にかすぐ目の前にあって、唇が触れた。
「!?」
アデルの唇の感触がある。驚いて思わず後退りそうになるけれど、いつの間にかアデルの手が私の頭を押さえて離さない。唇が少し離れたかと思うと、またすぐにそれは触れ合って、アデルは私の唇を食むようにキスを繰り返している。
次第にそのキスは激しさを増してきて、私の頭はだんだんと朦朧としてきた。どうしよう、急すぎて何が起こっているのかわからない。離れたいのに離れられないし、気持ちよくてふわふわする。
アデルの舌が口の中から無くなりようやく唇が離れて、私は呼吸を整えた。アデルを見ると、その顔は色気を放っている。そもそも顔面がいいのに、キスをして色気がダダ漏れになるなんてヤバすぎる。さっきまであんなに辛そうな悲しそうな顔をしていたのに今は全く違うなんて、こんなの詐欺じゃない!?
アデルは朦朧としている私の顔を見て、満足そうに微笑んだ。
「城へ帰るぞ」
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