第13話 赤
ディネッタを連れて家に帰るとローズが出迎えてくれた。ハイトが中等学校に進学してからミサンガを求めて多くの学生が出入りするようになり、ローズも若い客人にはすっかり慣れた。あたたかいココアを出されるとディネッタはカップを両手で包み込み、ゆっくりと飲み始めた。
ハイトは自室から一抱えもあるバスケットを持ってきた。何十色もある刺繍糸が花束のように詰め込まれている。
「新しいミサンガの色、何がいい?」
ハイトが訊ねるとディネッタは目を丸くした。
「すごいね。こんなにたくさん糸があるんだ。お店が開けそうだね」
ハイトは苦笑いした。
「集めてるうちにこんなになっちゃって。みんなにびっくりされる。ディネッタ、何か気になる色はある?」
ディネッタは糸の束を見つめながら思案した。
「……あたし、しばらくは強気でいたい。悲しい気持ちに負けたくない。強くいられる色がいいな」
「じゃあ、赤にしようか」
ハイトはバスケットから燃えるような赤い糸を出した。
「いい色だね。それがいい」
ディネッタも納得して頷く。
「他の色も混ぜられるけどどうする?」
「混じり気なしの赤がいい」
ハイトは頷いてさっそく編む準備を始めた。今回は同色の刺繍糸を三本使う。糸を引き揃えて端に輪っかを作り、その根本をテープで固定して編み始める。編む手順に迷いはない。手早く糸を絡めて結び目を作り、上へ引き上げる。それを延々繰り返す。ディネッタはハイトの手の動きを目で追った。
「そんなに早く編めるんだ。すごいね」
「慣れっこだから」
とハイトは笑う。ディネッタはそんなハイトの横顔を見つめながら訊ねた。
「ねぇ、ハイトは好きな人とかいないの?」
「うん。いないよ」
「アプローチとかもされないの?」
「うん。されたことないよ」
「誰かにどきどきしたりときめいたりしたこともない?」
「うん。……ないんだよね」
「まだそういう人と出会ってないってことかな」
「……うん。そうかも」
ハイトは会話の合間もすらすらと糸を編んだ。右にあった糸は左に移り、左にあった糸は右に移る。編み上がったところからまじないが掛かり、星屑のような煌きが宿る。ディネッタはまじないが掛かる瞬間をじっと見ていた。
「綺麗ね。きらきら光ってる」
「気に入ってくれた?」
「うん。とっても」
赤い糸は芯の強いディネッタの心に相応しい情熱的なミサンガへと姿を変えていく。四十分ほどでミサンガは編み上がった。ディネッタはハイトからミサンガを受け取り、さっそく手首に着けた。
「ハイト、ありがとう。本当に綺麗だね。何だか元気が出てくるよ」
ディネッタが柔らかな笑みを浮かべるとハイトもほっとした。
「よかった。笑ってくれて」
ハイトがそう言うと、ディネッタはミサンガを見つめるふりをして恥ずかしそうに俯いた。
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