第12話 夕日の帰り道

 翌日、編み上がったミサンガをディネッタに渡した。

「ありがとう。綺麗なミサンガだね。あたしにはもったいないくらいだ」

 ディネッタはそう言って固い笑みを浮かべた。気になる表情ではあったが深入りはせず、ハイトは頷く。その後、お互い一同級生としての立ち位置に戻り、彼女の恋がどうなったのかハイトには分からなかった。傍目には進展はなさそうに見えた。

 それから数日後、ハイトは帰り道でディネッタに呼び止められた。

「ハイト、あたし、駄目だったよ」

 そう言って俯くディネッタの瞳には儚い煌めきが宿っていた。町を照らす夕日がディネッタの瞳も照らす。

 二人は眩しく輝く帰り道を歩いた。長い影が揺れている。

「告白したわけじゃないんだけどさ、あたし、見ちゃったんだ。あいつが女の子と手を繋いで仲良さそうに歩いてるところ。可愛い女の子だったよ。二人共幸せそうだった」

 噂は本当だったんだなとハイトは思った。

「ハイトも知ってたんじゃない? あいつに彼女がいること」

 そう訊かれ、ハイトは正直に頷いた。

「……うん。噂は耳に入ってた」

「あたしに遠慮して言えなかったんだよね」

「……ごめん、ディネッタ」

 ディネッタは首を横に振った。

「いいんだ。本当はあたしも知ってたから。でも、諦め切れないっていうか、同じクラスにいる男子だから、嫌でも毎日目に入るわけでしょう? ……魅力的な人だなって、どうしても思っちゃってさ。――ごめんね。せっかくミサンガ編んでくれたのに」

「いいよ、そんなこと気にしなくて」

 ディネッタはスカートのポケットからピンクサファイアとクリームイエローのミサンガを出した。

「これ、ハイトが選んでくれた色なんだよね。すごくいい色だ」

 そう言いながらディネッタは物悲しくミサンガを見つめた。まじないの煌きが夕日の光に溶けている。ハイトはディネッタに言った。

「……ディネッタ、そのミサンガ、『昇華』しようか?」

「昇華?」

「そう。燃やしてお別れするんだ」

「でも、もったいないよ。こんなに綺麗なのに」

「まじないはまだ効いてるけど、そのミサンガはもう役目を果たし終えたんじゃないかな。新しいミサンガを作るから、それを持った方がいいよ」

「でも、やっぱり悪いよ」

 遠慮するディネッタにハイトは微笑んで言った。

「まじないってそういうものだから。気にしなくていいんだよ。今度はディネッタの好きな色で編もう」

 ディネッタはミサンガを握り締めながら小さく頷いた。

「じゃあ、お言葉に甘えて。お願いしようかな」

 ミサンガの昇華と新しいミサンガの糸選びのため、ハイトはディネッタを家に連れて帰った。

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