マジカルの8☆パジャマの二人

「へへ。狭いからくっついちゃうね」


「ゆのったら甘えんぼさんなんだから」

「なでなでして?」

「はいはい。

ゆのはいい子いい子ですね〜」


「そんなにいい子じゃないんだけどなあ」

「ゆのはいい子だよ」


「右眼……触れてもいい?」


お布団に入る時はちょっと厨二感のあるかわいい眼帯を外してる。

右眼の傷痕、いまは髪に隠れて見えていないと思う。


「いいよ」


髪をかき分けてゆのの指先が優しく傷痕に触れる。

優しく優しく。


気づいたらゆのの瞳が揺らいで涙があふれていた。


「ゆの?」

「しのっち……ごめんね。

あの日、あの時、守ってあげられなくて。

そうすればしのっちは……」


「ゆのは謝らなくていいんだよ。

あの時はみんな……

わたしたちは……生きてるんだから」


やっぱり死という言葉を口にできない。


「でも……わたしはあの時、ゆのを置いて逃げちゃったんだもん」

「それでいいの。

逃げてなかったら助からなかったかもしれないよ?

わたしはゆのに生きていてほしい。

だからまたそんなことがあったら……ね?」


「嫌だよ。わたしはもう逃げたりなんかしない。

いまは魔法を使える。

ううん。使えなくたってもう逃げない。

ずっとしのっちをみんなを守るから」


あふれる涙の向こうに頑なな意思を感じる瞳。

そっか……アキラ先生の言っていたことはこのことかも。

きっとわたしが原因でみんなのことも。

ゆのはたくさんの想いを背負いすぎてる。

ごめんね、ゆの。


「それじゃあ、わたしがゆのを守るね」

「違うの。わたしがしのっちを守るの」

「うん。だけどゆのを守るのはわたし」

「わたしは守ってもらわなくてもいいの!」

「やだ。勝手に守るもん」


「む〜。

じゃあ……出撃する時はいつも通りしてね?」

「うん。もちろんだよ。

明日も早いからもう寝た方がいいよ?」


「もうちょっと起きてたいな」

「そう? じゃああと少しだけね」


それからどこにでもいるような女子がするような話をしているうちに、どちらからともなく眠りについていた。




「ん……朝だ……」


あったかい……

目の前にゆのがいる。

あのまま寝ちゃったんだ。

小さなベッドでとっても狭いのになんだか幸せ。

肌が綺麗だなあ。

目元、鼻筋、ぷるんとした唇、フェイスライン。

どこをどう見てもドキドキするほど綺麗。

美少女オーディションにエントリーしたらきっとグランプリになると思う。

きっとじゃない絶対。

でも魔法少女になったからもう無理だよね。

ベッドに垂れる髪を一筋つまむ。

桃色の髪。

魔法少女に選ばれたあの日、ゆのの黒髪は桃色になった。


天使と出会った少女たちのほとんどが髪の色や形に変化があったらしい。

わたしも天使に会うには会ったけどなにも変わることはなかった。

黒色のままだ。

やっぱりわたしは魔法少女ではないんだと思う。


そろそろ行かなきゃ。

ゆのを眺めているだけであっという間に時間が経ってしまう。

眼帯を手に取るとゆのを起こさないようにそろっとベッドから這い出す。


洗面台で顔を洗って歯磨きする。

鏡を見ながら髪にブラシを通す。

眼帯じゃない方の左サイドを編み込みにして最後はおろす。

眼帯を装着する。

ん、いつもと同じ。

ゆのはわたしをかわいいと言ってくれるけど全然だと思う。

眼帯はカッコよくてかわいいと思う。

くるんと回って決めポーズしてみる。

厨二じゃん。

鏡にうつる自分の顔が赤く染まった。


パジャマを脱いでベッドの端にたたんで置いておく。

二段ベッドに吊るしていたセーラー服に袖を通す。

入学式に着ていた制服。

少し大きめだったサイズがいまはちょうどいい。


あの日

悪魔に襲撃された中学校。

爆発して飛んできたなにかがわたしの顔に当たって右目を失う大怪我をした。

意識を失ったわたしは、瓦礫の中で発見されて着の身着のままで病院に運ばれた。

その時の悪魔ははじめて魔法少女に変身したゆのが倒したって後から聞いた。

セーラー服が少し破れてたけど、星型の当て布を縫い付けていまも着ている。


入院生活を終えたわたしは、政府の人に天使と会ったことを確認されるとここに連れてこられたんだ。

そしてゆのと再開した。

二人とも家族を失っていたから本当に嬉しかった。


「ゆの、先に行ってるね」


小声で声をかける。


ヴィーヴィーヴィーヴィーヴィー!


「ゆのの警報が鳴ってる!

また悪魔が出たのかな!?」


悪魔のレベルに応じて必要な魔法少女をモニネコを通じて呼び出すようになってる。


「悪魔! 痛った〜!」


飛び起きたゆのが二段ベッドの天井に頭をぶつけてる。


「大丈夫!?」


「大丈夫〜。

ごめんしのっち、行ってくる。

いつものしてもらってもいいかな?」


「もちろんだよ!

はい、おでこちょうだい」


「うん」


ベッドに座ったまま少し顔を下に向けるゆの。

上目遣いがかわいい!


ちゅっ


キス

ゆののおでこに触れるわたしの唇。

ゆのが出撃する前に必ずするキス。

ゆのがみんなに認めさせたわたしのお仕事の一つ。


「へへ♪

もう誰にも負ける気がしない!

全人類だって助けてみせる!

それじゃあ行ってきます!」


狭いベランダで箒にまたがると高速飛行で格納庫に飛んで行った。

魔法装甲を装備するためだ。


「ゆの、がんばってね。

なんの力もないけど、わたしの魔法がゆのを守ってくれますように」


手を組んで青空に祈る。

青空は今日も変わらない。


「あ……ゆのったらパジャマのまま行っちゃった。

変身するからいいか」

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