マジカルの7☆美味しいご飯は活力

〜語り手 しの〜


「ほずみ姉ぇ、ただいまやってきました」


エプロンをつけながら厨房にお邪魔する。

ここまで小走りできたからちょっと息が上がってた。


「ゆのはちゃんと健康診断受けたかい?」

「いつも通りとっても嫌そうだったけどね」

「そうかい。

さっそくだけど野菜の仕込みをお願いするよ。

夜のメニューはレシピに書いてある通りだから。

肉はやんなくていいからね。

それが終わったらたまった洗い物をよろしく」


ほずみ姉ぇが中華鍋を片手で豪快に振るうとコンロから炎が上がる。

豪快にふるふるしてるのは中華鍋だけじゃなくて思わず釘付けになる。


「はーい。

えーと、回鍋肉か。

豚バラとキャベツだね」


レシピを確認してから厨房の端に積まれたコンテナボックスを一箱キッチンに運んで作業を始めてる食堂班のお姉さんたちの隣に並ぶ。


「こんにちは」

「しのちゃん、いつもありがとうね」

「しのは手際がいいから助かるよ!」

「即戦力がうれしいね!」

「お手伝い部のみんながみんな、しのみたいだったらいいんだけどねえ」


キャベツを手に取って下ごしらえをはじめる。

キャベツはほんとは手でちぎると味が染み込んで美味しくお料理できるけど、大量に捌かなきゃいけないから包丁でざく切りにするんだよね。

硬い芯の部分は包丁の側面でしっかり潰すのが何気に大変。


お料理のお手伝いも数をこなしてきたからお手のもの。

だけどお肉だけは触れない。

料理されたお肉ならまだ見てられるけど生肉は辛い。

どうしてもお腹が気持ち悪くなってしまう。


「そんなことないですよ。

お手伝い部じゃなくて補助労働派遣部ですから。

お昼時の戦争が終わって厨房の皆さんもしっかりご飯を食べてもらって休憩してもらわないとです」

「あはは!

あたしら食堂班の戦う相手は食材とお腹をすかした魔法少女と職員だね。

みんなが戻ってくるまでよろしく頼むよ!」


仕上がった料理を中華鍋からお皿に移すほずみ姉ぇ。

ここの厨房には自動化された調理システムや洗浄システムもある。

だけどメインのおかずだけは手作りしたいという料理長であるほずみ姉ぇの愛情がたっぷりこもってる。


「はい! みんなのために美味しいご飯を作ってくれるほずみ姉ぇたちが少しでも楽になるようにがんばります!」


世界魔法少女隊連盟所属魔法庁、日本本部と南関東支部を兼ねているこの施設は日本で最大級。

通称、魔法少女隊で働く人たちは多い。

作戦司令部を支える各種部署。

よくは知らないけれどたぶん10000人は軽く超えるんだろう。

お昼時のピークは過ぎても時間通りに食事を取れなかった人たちが次から次に食堂にやってくる。


「それにしても瑞々しくておいしそうなキャベツだなあ。

どれ一口……

甘〜い♪ しゃっきりしてておいしい〜!

ママが作ってくれたとんかつを思い出すなあ。

やっぱり揚げ物の付け合わせはキャベツの千切りが最高……だよね」


日常

変わらないはずの日常。

いつもの賑やかな食卓を思い出す。

パパとママと……心が痛い。


「うちに食材を納めてくれる農家さんには感謝だね!

世界が終わるかもしれないってのにこんなにうまい食材を届けてくれるんだ!

生きてることに感謝しなくちゃあね!

そうだろ? しのちゃん」


うっかり肩を落としたわたしに元気よく声をかけてくれるほずみ姉ぇ。


「……ほんとですよね!

農家さんだけじゃなくて、こんな状況でも働いてる人たちがすごいと思います!」


学校。

ショッピングモール。

街にあるいろんなお店。

会社。

避難する人があまりにも多くて休業、閉店するお店が多かった。

しばらくはみんな大混乱で大変だった。

だけど、どこに行っても変わらない。

一月経ち、半年経ち、手の回らない政府の対応。

毎日のように各地で起こる悪魔の襲撃。

いつまでも支援を待っていたら、逃げてるだけじゃ生活できない。

避難生活をしてる人ももちろんいるけど、結局みんな、いつも通りの毎日を選ぶほかなかった。




「今日もいっぱい働いたなあ」


大浴場から帰ってきたわたしはパジャマに着替えてベッドに寝転がる。

部屋にシャワーもついてるけど広いお風呂は最高。


「おつかれさま。

しのっちは働きすぎだよ。

朝からずっと働いてたんでしょ?

帰ってきたのは22時だよ?

ちゃんと夕食食べた?」


二段ベッドの上からゆのの声が聞こえる。

ゆのは上段でわたしは下段。

ゆのとわたしは相部屋。

ゆのは個室をもらえたんだけど、わたしと一緒にいたいということで二人部屋にしてもらった。

キャルとりんも相部屋で、3人だったり4人だったりほとんどの人たちが共同で部屋を使っている。


「お肉以外はちゃんと食べたあ。

わたしはゆのたち魔法少女みたいにみんなを助けたりできないでしょ。

だからせめて脇の下の力持ちになりたいんだ」


「……それを言うなら縁の下だよ?」

「…………ひゃ!?

わたしはなにも言ってない!

なんにも言ってない!

聞かなかったことにして〜!」


「ばっちりこの耳に聞こえました!

明日作戦司令部のみんなに言っちゃお〜♪」

「ひええ!?

それはやめて!?

またわたしの話で盛り上がるのはやめて!?」


「どうしよっかなあ♪

そしたら一緒に寝てもいい?」


「いいよ。おいで♪」


正直、疲れてはいたけど、迷うことなく二つ返事をしていた。

ほとんど寝るだけの部屋は狭い。

二段ベッドも小さいからね。

二人で寝ると疲れは取れなさそうだけど?

ちゃんと疲れは取れちゃうんだな♪

ゆのと一緒は心の栄養♪

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