第28話 パーシヴァル

 私たちは元の島へと戻ってきた。


 蛇のような黄金色の瞳が宙に浮いている。


「パっち、ついて来てたの……?」

「マーリン卿の差し金ではないぞ? あくまでわしは個人的にここまで追いかけて来たのじゃ。ヴァーミリオン卿、わしの名はパーシヴァル。担うスキルは【透過】と【千里眼】のふたつ。以後よろしゅう」


 千里眼のパーシヴァル。

 その異名の通り、千里先を見通す魔眼の持ち主だ。

 能力同士が干渉しあった結果か、彼女は瞳だけが宙に浮いたような姿をしている。


「どこからつけていた?」

「お主が城から逃げた時からじゃ」


 どうやら最初からずっと監視されていたようだ。


「それなら父王とゼンの計画についても知っているな?」

「それについて相談があって、こうして姿を現した次第じゃ」


 姿を現したと言われても、透過のスキルで見えていないのだが。


「単刀直入に伝えるぞ。わしはお主らの味方じゃ。アルフォンス派でもフレデリック派でもトロイメライ派でもない。現王陛下の行いにも疑問を抱いておる。とくにあのゼンという男は信用ならん。しかし、わしの能力は戦闘向きではなくての。わし一人では何も出来ん。そういうわけで、お主らの力を借りたいと思っておるのじゃ」

「力を借りる? 具体的には何をどうしろと?」

「わしはフレデリックをお主に売ろうと思っておる」


 フレデリックを売る?

 別に、私はあいつのことはどうとも思っていない。

 もう関わりたくもない。


「いらない」

「いや、必要じゃ。お主には正統のクレーディア王家の血筋が流れておらん。だから、フレデリックを奴隷にした上で、奴隷のフレデリックを王位に就かせるのじゃ。要するに、傀儡政権を樹立させるというわけじゃな。アルフォンスは現在消息不明、トロイメライは姑息で嵌めるのに難儀する。フレデリックなら、わしはお主に売ることが出来る」

「奴隷にするというのは? 仮にも相手は第三王子だぞ。どうやって陥れるつもりだ」


 パーシヴァルは虚空から首輪を取り出した。


「この魔導具は互いの同意の上で嵌めた者が何でも言うことを聞くようになる奴隷の首輪じゃ。お主の能力でフレデリックにこれを嵌めることを強制すればよい。あとはトロイメライを排除すれば、自動的にフレデリックが王位継承権第一位となり、現王陛下の死と共にわしらの傀儡政権が樹立する」


「国を乗っ取るつもりか。君は自分の言っていることの重大性を分かっているのか?」

「うぬ、これは紛れもなくクーデターじゃ。しかし、現王陛下の思想に賛同出来かねるのだから、これしかやりようはなかろう? 二年前の巨獣戦役の頃から……いや、それ以前からわしはクレーディア王の蛮行を見てきておる。当然、こういう考えになってもおかしくはなかろう。わしがこうして行動に移したのは、お主というイレギュラーが発生したからじゃ。でなければ今頃は他の円卓と共に大人しく現王陛下に傅いていたじゃろうな。マーリン卿とも似たような話をしてきたのじゃろう? クレーディア王は信用ならん。この国の民を救うためには新しい国を興す必要があるのじゃ」


 私はサラのほうを見た。

 彼女も元々は円卓の騎士だ。

 パーシヴァルが信頼出来る相手かどうかは彼女の判断を仰いだほうがいい。


「パっちは悪い子じゃないよ。あたしもクレーディア王のやり方が嫌でヴァミっちについて来てるし。だからこの話は悪くない提案だと思う。だけど、乗るのは今じゃなくてもいい。こっちにはあたしとパっち、ヴァミっちとメナっちの四人しか戦力がいない。相手の戦力は簡単に見積もっても倍以上。そう簡単に決められる話じゃないよ」


 それはそうだ。

 サラは至極当然の意見を言っている。

 私はメナスのほうに視線を向ける。


「私はご主人様の選択に委ねます」


 私は答えを出すことにした。


「パーシヴァル、君の提案は現実的だ。どうやって現王を殺すか、どうやってフレデリックを私に売るつもりか、疑問点はいくつかあれど、私の目から見ても現実的に可能な落としどころだとは思う。だが、今すぐに判断を下すわけにはいかない。私はついさっきマーリンからこの世界についての話を聞いてきたばかりだ。父王がどんな奥の手を隠しているかも分からないのに迂闊に手を出せば、それこそこの世界の危機に繋がりかねないと思っている。ゼンの研究がどこまで進んでいるのか、父王のスキルがどれほどの威力なのか、私は自分のスキルの実験すらまだ完全ではない。こんな状態で動き出せばどこかで必ず瓦解する」

「なるほど」


 パーシヴァルは少し瞳を伏せ、それから呟いた。


「わしは少々性急すぎたのかもしれんの」

「君に手を貸すこと自体は我々もやぶさかではない。しかしもう少しだけ判断材料が欲しい。それに、サラが言ったように我々はまるで戦力が足りていない。まずは味方を増やすところからどうにかすべきじゃないかな。この四人だけで王宮に乗り込むわけにもいかないだろう?」


「お主の言い分はもっともじゃ。フレデリックを奴隷にして、傀儡政権の方向性で計画を進めること自体には異論はない、という認識でよいのじゃな?」

「異論はない」

「それはよかった。それでは一旦フレデリックだけ買い取ってもらいたいのじゃが……」

「ああ、首輪は預かっておく。フレデリックの性格からして、アルフォンスのようにまたどこかで会うことがあるはずだ。その時に嵌められるよう努力しよう」

「いや、フレデリックを買い取るのは、今、ここでじゃ」

「なに……?」


 僅かに地面が揺れているのに気付く。

 建物全体が、外部からの影響により軋んでいる。


「アルフォンスの国葬はフレデリックが取り仕切っておった。トロイメライの入れ知恵じゃろうな。あの夜の宴以来、王宮内でのフレデリックの評価は下がる一方じゃった。フレデリックはアルフォンスの失踪を利用し、その原因となった国賊ヴァーミリオンを自らの手で討ち取ると宣言した。アルフォンス派は担ぐ神輿を失って行き場を失っておるからの、武勇を示してアルフォンス派を自分らの傘下に取り込みたい狙いがあるのじゃろう」

「まさか……お前……」

「この状況で円卓の騎士であり【千里眼】の持ち主でもあるわしがヴァーミリオンの居場所を知らせれば、フレデリックは自ら赴かないわけにはいかないじゃろう? 今、外にはフレデリックの出した艦隊が集まって来ておる。これをお主が逆に利用して、フレデリック派を乗っ取る。良き流れじゃろう?」


 メナスはパーシヴァルの胸倉を掴み寄せ、黄金色の瞳を睨んで言った。


「フレデリックを私たちに売る? この状況、フレデリックに私たちを売ったの間違いでは? 私たちには船は一隻しかないのですよ? 敵の艦隊は第三王子の直営部隊。どう考えても勝てる戦いではありません。ご主人様……今ここでコイツを殺したほうがいいのではないでしょうか……?」

「そう思われる可能性は十分にあるじゃろう。納得がいかんのならわしの首を刎ねてくれても構わん。しかし、お主の【スキル】を使えば、この艦隊を相手にしてもどうにか出来るとわしは判断した。これから先、わしの【千里眼】はお主らに必要じゃと思うが。さて、どうする、ヴァーミリオン卿?」


 私はため息を吐いた。

 ここで私が勝てばパーシヴァルは話していた通りにクーデターを起こすだろう。

 フレデリックが勝てば、国賊ヴァーミリオンの居場所を知らせた手柄を得られる。

 パーシヴァルからしたらどちらに転んでも美味しい展開だ。


 仕方がない。

 この計算高さまで含めて、私はコイツを買い取ろう。


「いいだろう。メナス、サラ、フレデリック艦隊を破りに行くぞ」

「いいのですか!? 私たちは砲を全て捨てているんですよ!? 勝てる見込みはほとんど……」

「いずれにせよ、ここから逃げるためには敵の艦隊を突破しなければならないだろう? そのついでにフレデリックを奴隷にするだけだ。パーシヴァルを殺しても状況は何も好転しない」


 私たちは外に出た。

 島は外から砲撃を受けている。


 私たちは入り江に隠しておいた魔戦艦に乗り込み、船を動かす。

 望遠鏡で艦隊を眺め、真正面の船にフレデリックが乗っているのが見えた。

 フレデリックは船員たちに対して何か演説をしているようだ。


 私は作戦内容をサラに耳打ちし、それを聞き彼女は頷く。

 パーシヴァルは私たちの船に乗り、お手並み拝見といった様子で手すりの上に腰を下ろしている。


 サラは腰から聖剣を引き抜き、それを天高く掲げた。


「ガウェイン卿……!? まさか……!!」


 サラの周囲に魔力の風が舞い、パーシヴァルはそれを見て唖然とする。

 聖剣が光を発した。


 私たちはすべての砲を捨てている。

 しかし、それは厳密には間違いだ。


 この魔戦艦には一門だけ、最強の砲を残している。


「ガラティイイイイイイイインッッッ!!!!!!!!!」

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