12 ノールック
【火星代表 vs 地球代表 国際親善試合】
火星代表ロッカールーム。
アラン・マルセリオ主将がチームメイトたちに声をかけた。
「セロは後半から投入。前半は俺たちで持ちこたえよう。」
セロはイスに座り、スパイクをゆっくりと結んでいた。
「まあ、そっちのほうが親善ムードには、なりますものねぇ。」
火星選抜のほとんどが笑って、うなずいた。
今日の相手は地球代表─キリンジたち。
ナノマシンによって強化され、AIにリアルタイムで操られる“完璧な選手”たち。
ナノマシンが、情報を瞬時に受信し、戦術は仮想現実『ビジョン』を経由して選手の視界に送られてくる。偶発性を排除された存在。
>>前半、早くも35分が経過しました!火星代表はやや硬い立ち上がり。対する地球代表は見事なポゼッション、パスミスはほぼゼロ。チームワークにも一切のムダがありません!<<
前半37分、ボール支配率は圧倒的に地球代表。
ゴールを脅かすような場面は少ないものの、地球代表の連動した動きと、正確なパスワークが延々と続く。
ボールの奪いどころがなく、8割以上の時間を火星代表の陣地内で過ごしている。
久しぶりにミヤマがボールを持った瞬間─
「来てるぞ!」とネブラ・トールが叫ぶ。
あっという間に三人に囲まれていた。
「やべっ。」あっさり奪われてサイドを破られた。
深く切り込んだウイングが中央にクロスを上げた。
ボールは中央に、しかし、赤髪で屹立するセンターフォワードの頭上を巻いて逆サイドへ。
>>ボールの先には、エンダ・コルシュが走り込んでいる!ダイレクトで合わせた、うぉー!!<<
地球寄りの実況アナウンサーが大興奮で告げた。スコアは0-1。
完璧な崩し、地球代表のキャプテンがダイレクトボレーを叩き込んだ。
火星ベンチが沈黙に包まれる中、監督がセロを見た。
「後半から行くぞ。」
セロは頷き、ゆっくりと立ち上がった。
後半14分。
>>火星代表、後半からはセロ・イグナートが投入されています!火星一、いまや宇宙一のマリーシア男が、ついに登場だ!<<
セロはピッチに立つと、まずはディフェンダーに軽くウインクした。
そして、“ひとり芝居”が始まった。
─負けているのに遅延行為。
—触れてないのに飛び跳ねて転がる。
─敵DFに火星ジョークを披露する。
AI監督はノイズ処理に追われ、地球代表選手たちの『ビジョン』に小さな警告を表示し始めた。
「不自然な挙動」「演算処理中」
「please wait」「お待ちください」
アルゴリズムが揺さぶられ、選手の心もざわめき始めた。
この試合初めての「明らかなパスミス」を、逃さず奪ったセロがドリブルを開始した。
ジオが横でフォローして並走、ハフィーニャが左に回り込み、ミヤマが右サイドで手を挙げている。
セロは瞬時に身体の向き、重心、視線、足の方向をすべてバラバラにして、同時に3つのパスコースをアルゴリズムに読み取らせた。
地球人たちの拡張現実『ビジョン』には《もうすぐ、パスが出ます》とだけ表示された。
地球代表全員の足が止まった。
セロは、そのままドリブルでゴールに突進。
ひとりが我に返り、スライディング。
セロが先にボールに触り、跳びかわした。
実況席が騒がしくなる。>>セロが中央でドリブル、2人かわした。1対1だ、中に持ち出す、右足、打たない、もう一度持ち出す、ニア、決まった〜!キーパー動けません。ブロックしようとしたDFの股を抜きましたセロ・イグナート、同点ゴール、火星代表メンバーの手荒い祝福を受けています。<<
スタジアムが爆発したような歓声に包まれる。
後半27分。
セロの胸にぴたりとボールが張り付いた。
ボールを貼り付けたまま、左に回転しながら前を向く。
させまいと、エンダ・コルシュが体をぶつけてきた。
肩甲骨あたりでゴッと鈍い音がしたが、ボールもセロもびくともしない。
ボールはスッとセロの身体を伝って真下に落ちた。
火星の岩にでもぶつかったような感触をエンダは驚愕の表情で受け止めている。
セロは、もはやエンダを見ていない。
「読めてても、どうしようもないことってあるでしょ。」
セロはセンターフォワードのサンダースに高々とロングボールを供給した。
さきほど交代で投入されたサンダースは身長248センチ。
ゴール前に高く上がったボールを、アルゴリズム監督は『弾き返せ』と命じる。
DFが懸命にヘディングしようとしたボールは、ジャンプしたサンダースの胸に当たった。
サンダースはタイミングよく走り込んで来た「真面目代表」アラン・マウセリオにボールを落とす。
アランは、思い切り右に顔を向けながら、左に飛び出したセロ・イグナートに絶妙なスルーパスを通した。
>>競り合うサンダース、なんという高さ!これは重力操作なのか、アランに、なんと!ノールック、セロは完璧に止めた、うまい!ゴールゴールゴーォォォール!セロ!イグナート!なんという男だ!<<
ルシーダの父、エルネスト・コルサは自宅で試合を観戦していた。
リプレイに表示される、骨抜きにされた地球代表とセロのおどけた表情を見て、笑った。
─真っ直ぐに勝つだけが、サッカーじゃない。ということか。—
代表戦の3日後、ルシーダと共にセロと再会したエルネストは、背筋を正した。
「セロ君─、先日は失礼なことを言って、すまなかった。許してほしい。」
セロは少し驚いた顔をして、それから頷いた。
「いや、俺もあのとき、本当の顔を見せてなかったんで。頭を上げてください。」
「代表のプレーは、見事だった。45分で君のファンになったよ。」
「2点目見ました!?アランがノールック、あの真面目代表が俺の真似して!」
そう言って笑うセロは、サッカー好きの少年の顔だった。
チームメイトの奇行を嬉しそうに語る「地球一の嘘つき男」に、ルシーダもエルネストも微笑んだ。
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