第14話 涼風由子からの依頼

 わたしの真正面に、母親。右隣に、あおい。

 腕を組んで、ダイニングチェアに腰掛けた。


「あおい。玲華れいかは帰ってきてるよね?」

「1週間前、あなたと一緒に帰国してますけど」


 風凪かざなぎ玲華れいかさんは、あおいのお母さん。

 玲華さんは投資家で、4月の中頃からうちのママと一緒にトルクメニスタンにいたんだけど、つい1週間前に帰ってきたばかりだ。


「今、家にいる?」

「今は仕事で――たしかテレビ局にいるはずですけど。番組の収録があるとかで」


 玲華さんは投資家の中でも有名で、メディアにも出演してたりするんだ。SNSとかはやってないみたいだけど、それこそテレビに出たり講演会をやったりしている。


「じゃあ、テレビ局爆破の話は聞いてる?」

「「……はっ!?」」


 て……テレビ局爆破!? なんで帰ってきて早々、そんな物騒な単語が飛び出すの!?


「え、爆破って……どういうこと!?」

「そんな話、聞いてませんけど」

「なんだ、言ってないのか」


 露骨に面倒くさそうな顔をしたママは、お茶を一口ズズズと飲んで、ため息をついた。


日嶺にちみねテレビに、爆破予告があったんだよ。【5月13日 日嶺テレビ本社を爆破する】ってね」

「5月13日って……」

「6日後だ」


 パッとカレンダーを確認する。今日が5月7日だから、あおいの言う通り6日後だ。


「これ、ホントは外部に漏らしたらアウトな話だから。でも、あんたたちに話したのは……この爆破を止めてほしいからなんだよね」


 ……ん? なんか今、この人変なこと言わなかった?


「爆破を、止める? わたしたちで?」

「そそ。あんたたちなら、できるでしょ?」

「できないことはないけど……え、なんで?」

「止める依頼、受けてくれる?」

「依頼? ホントにどういうこと?」

「受けてくれる?」

「……」


 ダメだ、この人相手じゃ、会話もままならない。


「あおい、どうしよう」

「……つまり、依頼内容は『日嶺テレビ爆破を阻止する』ということでいいんですよね?」

「そういうこと」


 あおいは、ちょっと考え込む。


「……受けてもいい、んだけど……」

「よし、契約成立」

「「はあっ!?」」

「ちょっと待った! まだ了承してない!」

「今いいって言ったじゃん」

「あおいは『だけど』って言ってた!」

「ストップ。2人とも落ち着いて」

「「ムリ!」」


 わたしとママが声を揃えてズバッと返すと、あおいは真顔になる。


「あの――」

「由子、大人げない」


 あおいが何かを言う前に、第三者の声が遮った。

 玄関のほうを見ると、今帰ってきたらしい玲華さんがあきれた顔で立っていた。


「玲華」

「由子、ちゃんと説明しなさい」

「……しかたないなぁ」


 ……2人は、学生時代からの友人らしいんだけど。この構図だと、やっぱり友達っていうよりかは親と怒られてる子どもにしか見えない。自分の母親が子どもに見えるって、どうなんだろ。


「詳しいことは、まだ言えないんだ。今言える爆破予告の概要だけ伝えとくね」


 伝えとくねと言っておきながら、ママはスマートフォンを操作する。


「データ送ったから」

「データ!? 今絶対口頭で言う流れだったよね!? ……って、そうじゃなくて! 結局なに、どういうことなの!?」

「依頼を達成したら、全部わかるって。報酬は弾むから、頑張ってね〜」


 そう言って、ママは席を立つと。仕事が残ってるから、と部屋に消えていった。玲華さんは、いつの間にか帰ったらしい。


 残されたわたしは、唖然とした顔をあおいと見合わせるしかなかった。

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