第5話 あおいの決断

 コトンと、リビングのテーブルにカップを置いた。

 午後八時。わたしとあおいは、テーブルを挟んで向かい合わせに座る。

 盗聴器を回収したあと、予定通りに買い出しに行って夕食を食べ終えたところだ。


「……で、どうする?」

「どうするも何も、ましろの答えは決まってるんだろ」

「わかってるの?」

「……どうせ『宝石を取り返す』とか言い出すんだろ」

「さっすがあおい! わたしのことよくわかってる!」

「わかってるけどいいとは言ってないからな!?」


 あおいは、今日でいちばん大きなため息をついたあと、「ましろ」と名前を呼んだ。


「お前、やろうとしてること、わかってるんだろうな」

「わかってるよ」


 キッパリと返した。

 全部わかってる、覚悟の上だ。


「危ないし、犯罪だってこともね」


 ぬすまれたものだからといって、り返すのは泥棒だ、ってことも。


「……下手したら、命がなくなるぞ」

「……ねぇ。あおい、わたしのことちゃんと知ってる?」

「知ってるから止めてるんだ。お前の場合、こうと決めたら絶対に曲げないし、ひとりで突っ走るだろ」

「うぐっ。正論! ……って、わたしが言いたいのはそこじゃなくって」

「ああ、運動神経が良いから命の危険は心配しなくてもいいって?」

「そう! それ!」

「んなわけあるか!」

「ある! だって、ちょっとやそっとじゃ死なない自信はあるもん」

「それは……いや、だからって……行かせられない」

「お願いだよあおい。行かせて」

「お前がそこまでして、『行きたい』って思う理由はなんだ?」

「……カン」

「……ん?」

「放ってたらいけないっていう勘。何か大変なことが起きそうな気がして」

「はぁ……」


 声を漏らすあおいに向かって、「それだけじゃない!」とわたしは慌てて言った。


「もちろん、羽柴さんに元気になってほしいからだよ」

「……勘のあとに言われても、説得力ないけどな……」


 うぎゃっ。た……たしかに。


「……わかった。やるか」

「……え、ホントに?」


 さっきまで「絶対ダメ」だったのに。急な手のひら返しはなに?


「おれも嫌な予感はしてたんだ。だから、どうするか迷ってたけど……ましろが行くって言うんなら、動かない理由はない」

「な……」


 ウソ。


「あおいも最初っから動く気満々だったんじゃん!」


 身を乗りだして叫ぶと、「うるさい」とあしらわれた。


「なんでそんなにダメダメ言ったのさ」

「……」


 黙りこくるあおいに、わたしはなおさら?だ。


「……やっぱ言わない」

「なんで!? ケチ!」

「ケチって……言ったら言ったで怒られそうだから。言わない」

「じゃあ、いつか教えてくれる?」

「……まあ。怒らないんなら」

「一体どういう理由なの?」


 まあいいか。本当に必要なら、ちゃんと言ってくれるだろうし。

 とにかく、『空色リング』のダイヤモンドを取り戻す。

 気合い入れていかなくちゃ!

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