第2話 最強幼なじみコンビ?

「戸締まりオッケー、いってきまーす!」

 あおいと並んで、学校まで歩き出す。


 改めて紹介しよう、わたしは涼風すずかぜましろ、この春から高校1年生。血液型はО、誕生日は4月11日、体を動かすことが好きで得意。勉強はまあまあ。


 隣が風凪かざなぎあおい、同級生でわたしの幼なじみの男子。あおいが生まれたときからずっと一緒。家はお隣さんで、幼稚園、小学校、中学校、高校とずぅ〜っと一緒の腐れ縁。


 あおいの誕生日は、わたしと2日違いの4月13日。頭がよくて運動はまあまあ、料理が神上手い器用モンスター。


 あおいとの関係は良好だ。ごはんも作ってくれるし、なんでも話し合える仲だし。


 桜並木に差しかかり、ふわっと、目の前で桜の花びらがひらひらと舞う。もう葉桜だ。

 学校が近づくにつれて、制服を着た生徒が増えていく。なんとか間に合いそうで、ほっと息をついた。


 そして、こんな声も多く聞こえてくる。


「ねぇ見て! あれ、ウワサの『最強幼なじみコンビ』じゃない!?」

「えっ、ウソ!? あの美男美女の新入生!?」

 いつの間にか、学校ではちょっとした有名人になっている――わたしとあおいのことだろう。


「騒がれてんね、『最強幼なじみコンビ』」

沙織さおり

 声をかけられて振り返ると、親友の沙織が呆れたような顔で立っていた。


 成田沙織なりたさおり。幼稚園からの親友で、面白いことが大好き。

 そう、なんだ。


「で、こんな漫画みたいなことになってるけど。おふたりの心境は?」


 つまり、わたしたちが騒がれてる状況を、すっかり楽しんでるってわけ。

 いつものことだから、もうそんなに気にしてはいないけど。


「心境って言われても……。そもそも、なんでわたしたちこんなに騒がれてるんだっけ?」


 逆に質問すると、沙織はぎょっとしたように体をのけぞらせた。


「はあっ!? ましろ、アンタ本気で言ってる!? なんで騒がれてるか、自覚ないわけ!?」

「うん」


 わたしが大真面目に頷くと、沙織は大きなため息をついたあと、「いい?」と人差し指を立てた。


「例の通り魔事件で、ふたりが大活躍したからに決まってるでしょ」

「「――ああ、あれのことか」」


 例の通り魔事件。ちょうど始業式の日にあった出来事で、学校周辺に出た通り魔を、わたしたちで捕まえた――っていうものだ。


「なるほどねぇ。あれでか」

「他にもあるけど」

「「他にも?」」

「まずましろ。新体力テストで全種目、学校の最高記録を更新したんだから、注目されるに決まってるよね?」


 そ……そういうもん?


「そういうもん。次にあおい。まあまあ偏差値が高いことで有名なこの学校の新入生テストで、全教科満点を取ったら、そりゃあみんなびっくりでしょ」

「……そうか……?」


 ふたりそろって首をかしげる。


「はぁ……まあいいや、とりあえず、ふたりともすごいってことだよ。それが美少女と美少年の幼なじみだったら……騒ぎたくもなると思うよ」

「美少女と美少年……?」

「……あんたたち、ふたりそろってそこは昔から自覚ないよねぇ」


 本日二度目のため息をつく沙織。

 沙織いわく、わたしとあおいは世間一般でいうと顔が良いらしい。

 あおいは、確かにまぁ……カッコいいとは思うけど。正直、わたしはあんまりよくわからない。


「そういえば、ましろ、あれから部屋の片付けはしたか?」


 あおいに言われて、ギクリと固まる。


「その顔は絶対してないだろ……昨日のはかなり酷かったぞ」

「酷いって酷いよ! ただ好きなものに囲まれてただけじゃん」

「囲まれるのはいいけど、そのあとにちゃんと片付けろって言ってるんだ。あとお前の囲まれ方はちょっと怖い」

「怖くないし。『てマラカ』のどこが怖いの? あおいも好きでしょ? あ、沙織も好きだよね?」


 「てマラカ」っていうのは、わたしの推し漫画。略す前の題名は「天才マジシャン・マラカイト」! 怪盗が主人公の物語で、すっごく面白いんだ!


「うん。あたしも、『てマラカ』は好きだよ」

「好きだけど、怖いのは『てマラカ』じゃなくてお前だよ。っていうか部屋に散らかってたのは『てマラカ』以外にもあっただろ。怪盗やスパイの話を中心に祀ってたな」

「祀るって! 飾ってただけだし」


 たしかに、昨日は怪盗やスパイ、忍者なんかのバトルものの本やアニメ作品のグッズを棚に並べて眺めてたけど。


「そんなに片付けてっていうなら、あおいがしてよ!」

「するわけないだろ! なんでおれがお前の部屋を掃除しなきゃならないんだ」

「じゃあわたしの部屋の事情に突っ込んでこないでよ!」


 ギャーギャーケンカ仕出したわたしたちを、沙織はまたもや呆れた目で見てくる。


「ホント。いつもいつもよく飽きないねぇ」


 ものすごい注目を浴びながら、校門を通りすぎたとき。


 2人の女子生徒めがけて、ボールが飛んでくるのが見えた。


 このままじゃ、確実に2人に当たる!


 わたしは、バッと走り出した。


「あおい、それ持っといて!」


 鞄をあおいに放り投げて、女子生徒の前に滑り込む。



 ガシッ



 間一髪、ぎりぎりボールを受け止める。


「ふぅ……間に合った。大丈夫?」


 女子生徒にたずねると、2人は「はい」と頷いた。


「すみませーン!」


 サッカー部の人がこっちに駆け寄ってきたので、ボールを蹴って返す。


「うおっ。すごい威力! 涼風さん、やっぱサッカー部に入らねぇっすか?」

「いーや。涼風さんにはうちのバスケ部に入ってもらうわよ!」

「違うちがう。バレー部に!」

「テニス!」「バドよ!」「いいや柔道部だ!」「絶対に剣道部よ!」


 サッカー部に便乗して、色々な部活が勧誘してくるのを、わたしはひらりとかわした。


「どこの部活にも入る予定はありません! あ、助っ人くらいならいいですけど」

「助っ人でもいい!」「涼風さん、ぜひともうちの部に入って!」


 あわわ。これはちょっとヤバいかも。


「じゃ、失礼しまーす!」


 登校生徒の邪魔になると判断したわたしは、ダンッと地面を蹴って階段の踊り場の手すりをつかむ。

 そのまま空中で一回転して、踊り場に着地した。

 下のほうから、「おおーっ」と歓声があがる。


「って、感心してる場合じゃない! 逃げられるわ!」


 ウソ、まだ追いかけてくるの!?

 慌てて校舎の中に逃げ込むと、待ち構えていたかのようにあおいが鞄を突き出してきた。


「ほら。全く、お前の運動神経はすごいな」

「ありがと。あおいもさすがだね、タイミングばっちり!」

「まあ、16年のつきあいだからな……行くんだろ?」


 この「行くんだろ」は、さっきの女子生徒のところにって意味だ。


「もちろん。さ、レッツゴー!」

「まて、そっちじゃない!」


 あおいはやっぱり、わたしのことよくわかってる。

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