第22話 G.P.S.覚書〈その10:活力瓶〉
赤毛猿がギャーギャーと騒ぎ立てますのに 逐一反論をしておりますと キールさんが近寄ってらっしゃいます。
「痴話喧嘩で盛り上がってるとこ 悪いんだけどよぉ……。お嬢 だいぶ疲れてっだろ? これ
そう言いながら 腰のベルトから薄紫の液体の入った薬瓶を取り出されます。
〈痴話喧嘩〉と言うのは〈恋人同士の他愛もない喧嘩〉という意味ですので
それよりも『紫色の薬瓶』です。
大怪我をしたであるとか 生命の危機という事態でもないのに〈
後で 高額の請求をされるに違いないのですから。
「そりゃ 確かにそうなんだけどよぉ……。でも お嬢 マジでフラフラだろ? さっき 魔法唱えた後から ヘタリ込んだままだしよぉ 顔色も
……くっ。
痛いところを突かれました。
実は フィンと口喧嘩していた間も まだ立てておらぬのです。
だいぶ 回復してきましたので もう立てるとは 思いますが。
立ち上がろうとして 更なる不覚。
足元がおぼつかず バランスを崩し フィンに抱き止められます。
転びかけたところを助けてくれたのは ありがたかったのですが 口を衝いて出たのは お礼ではなく 別の言葉。
「どっ どこ 触ってんのよっ 死ねッ この変態っ!」
「はぁ? ジーナのガキっぽい身体なんて すき
殺す。
絶対に殺します。
大体 素直にお礼が言えないのも 胸の成長が遅いのも 大変にデリケートな乙女の悩みですのに 人前で大声で話すだなんて万死に値すると申せましょう。
ですが キールさんの仰る通り 今の
「お嬢 マジにフラフラじゃんよ……。これ 飲んだ方がいいぜ。店長が さ…『ジーナ ケチだし ビビりだから 持たせても 断ると思うし キール持っといて』って言われて この〈
守銭奴の権化のような
……ですが 割り勘という言葉には 心惹かれます。
1人で払わなくてよいのであれば なんとかなるかもしれません。
キールさんから
胃にお薬が流れ込んだという感覚と共に 先程から感じておりました 軽い眩暈や頭痛が みるみる消えていくのが 分かります。
数瞬の内に 朝起きたばかりのような清々しく充実した感覚が漲って参ります。
今の
程よい呪文は無いかと
討ち洩らしはないかと死体の確認をされた後 こちらに向けて歩いてらっしゃったシスター・フィーナから声が掛かります。
「ジーナさん フィンさん 痴話喧嘩の仲直りはできました? それはそうとジーナさん アイリスさんが ご用があるそうで呼んでらっしゃいますわ」
〈痴話喧嘩〉というのは……。
……いえいえ。
今は アイリスさんの ご用の方が大切です。
慌てて 少し離れたところに しゃがんでらっしゃいますアイリスさんの所へと向かいます。
「ああ 魔術師殿 来てくれたの。もう痴話喧嘩 終わったんだ?」
またもや〈痴話喧嘩〉呼ばわり……。
先程の〈
母といい おば様といい お仲間の方々といい
「あのさ この
アイリスさんの膝元には 先程
少々恐ろしいですが
他の
確かに
「あたしの知識が間違ってなきゃ
アイリスさんの問い掛けに 静かに頷きます。
一昨日に学院の図書室で慌てて調べただけで数冊の書物からの知識ではございますが
「じゃあよぉ…… まだ あと80匹近くいるってことか?」
キールさんが 引き笑いのような表情を浮かべて尋ねられた質問にも 頷いてお答えします。
この
目指す遺跡に あと何匹の森小鬼が残っておるのか さらには 強力な
「大規模な群れである可能性が 上がってきた訳だけど あたしとしては やっぱり確証を目で見て確認しておきたいと思う」
「わたしも その方が良いと思います。ジーナさんの見立てを疑うわけではありませんけど この死骸だけでは 証拠として弱いと思いますの」
「依頼人の2人の意向は 大事にするつもりだけどよぉ 20匹弱でも 苦戦したワケだろ…… いや まぁ 俺が弱ぇのが悪いんだけどよ。フィンとジーナは どう思う? ちゃんと意見言っといた方がいいぜ?」
そう言って キールさんは 年若い
「あの……オレは 引き返した方が いいかなって思います」
あれ?
強気で 威勢のいいことばかり言っている フィンにしては殊勝なセリフ。
怖じ気づいたりするタイプでは 無い筈なのですが……。
「さっき ジーナが魔力切れ起こしてたじゃないっすか。オレは ジーナが心配なんで」
カチーンと来ます。
言うに事欠いて
怖いなら怖いと正直に言えばいいのです。
それを
皆様に
魔力については 先程の〈
「みんなの考えは分かった。もう少し遺跡に近づいて
アイリスさんの取りまとめに 皆が頷きます……。
………。
……。
…。
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