第2話 リイン村
王都の東門を出て1刻。
東の森の手前 リインの村に到着する。
4月の半ばの牧草地には レンゲが咲き乱れ それを食むヤクの群れが ゆっくりと移動を繰り返している。
「まずは フィネルさんの家に向かうから」
「へいへい」
背負い袋姿の
森を切り開いた耕作地の間に 疎らに点在する農家。
「久しぶりのリイン村だけど 相変わらず のんびりした所ね……」
周りを ゆっくりと眺めながら 小さく呟く薬師。
そして 隣を歩く長身の闇エルフの表情に気づく。
「……どうかした? もしかして 前のこと気にしてる?」
「んー いや… それとは
組んでいた腕を解き 掌を長い耳の後ろに当てて 聞き耳を立てる 長身のエルフ。
「……精霊達が騒いでる感じ?」
相棒の
「ウチ
「ふーん。ヤバそう?」
「……どやろ?
「そっか…まぁ 油断しないように 行きましょ」
そんなことを話す内に 村外れの とある農家へと辿り着く。
藁葺きの一軒家を囲う木柵の扉を開け 敷地へと入る
入り口の木戸横に立ち 呼び鈴の紐を引っ張る。
――リリーーン――
「はーい。どうぞー 入ってー」
中から聞こえる熟年女性の声。
扉を開け 土間へと入って行くマリノア。
扉の所で立ち止まり 中へ外へと目配りする
「あらあら? マリノアさんじゃないの。お久しぶりねぇ。今日は いつものバイトの
にこやかな笑顔で出迎えたのは 綿スカートの野良着に薄橙のスカーフを頭に巻いた50絡みの農婦。
「こんにちは おばさん。ちょっと急ぎの用件で……」
「そうなの? 〈碧猫屋〉さんに お出しできるようなの まだ2束ぐらいしか できてないわよ……。少し品質悪くてよければ もう少しあるけど…」
そう言いながら 土間奥の乾燥棚から レノア草の束を取り出し マリノアへと手渡す。
表・裏と見返し 匂いを嗅ぎ 手触りを確かめる マリノア。
……そして
「さすが フィネルさん
「〈碧猫屋〉さんに お出しする分は お祖母さんの代から きっちり仕上げなさいって代々言われてるから……ずいぶん泣かされたって
そう言って 日に焼けた頬を緩ませた。
「頼み始めた頃は そりゃ品質上げて欲しくて 色々とお願いしたけど……でも 注文する度 ちゃんと応えてくれたのは フィネル家だけよ? あとは みんな 音を上げて逃げちゃったもの……ホント感謝してるわ」
「わが家としても 特別良い値で買って下さるからマリノアさんには感謝してますよ。いつも ありがとうございます」
フィネル家の家刀自と〈碧猫屋〉の店主は 久方ぶりの再会を言祝ぎ 噂話に花を咲かせる。
曰く 嫁のグチ。
曰く 最近村に来た先生の評判等々。
マリノアも街で仕入れた最新の話題を話して聞かせる。
曰く 街で見かけるスカーフやスカートの流行り。
曰く 女王アレクサンドラ3世の戴冠20周年式典の準備等々。
「あの愛らしかった姫様が 女王様になって もうすぐ20年になるんだねぇ…。10年の時の式典は うちの人と見に行ったけど 別嬪だったねぇ。今年で 37歳だったはずだし また 一段と女ぶりも上がって 素敵なんだろうねぇ……」
そんな よもやま話の間も 褐色のエルフは 扉の所に立って 聞き耳を立て 目配りを怠らない。
「この後 森に入って シャリオ草の新芽を採りに行こうと思ってるんだけど 最近 森で変わったことない?」
「ああ それなんだけど うちの人が言うには 3日ほど前から
「こんな季節に?」
「変よねぇ。秋の終わり辺りなら ともかくねぇ。まあ マリノアさんなら大丈夫だろうけど……」
「まぁ
乾燥したレノア草の束を
別れの挨拶を交わし 扉の所にいた
黙って 薬師の後ろに続く
「
「
「追加料金とか 出さないわよ?」
「へいへい。そんなん
少し肩を竦めてみせた後 暗紅色の瞳の闇エルフは
………。
……。
…。
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