第2話 

「刀也、あなたは追放よ!」


 旧東北支部管轄の区域周辺の魔獣を粗方狩り尽くした後、局長に呼び出しを受けた僕は、追放処分を受けそうになっている。

 色々無理をしてきた自覚はあるので妥当な処置かもしれない。

 局員の仕事を奪うのは良くないし。

 そして何より、局の管理下から離れたとしても、魔獣狩りに支障は出ない。


「了解しました。」


「物分かり良すぎじゃない!? なんかほら、もっと『こんなに貢献してきたのに!』とか『不当だ!』とかそういう反応を期待していたのだけれど。他の局員に説明した時、事務員には泣かれ、戦闘員にはボコボコにされたのよ?」


 なんとなく想像出来てしまうのは日頃の行い故か。


「お疲れ様です。それで、追放先はどこですか?」


「学園よ。」


「は? …教員として、ですか? それとも潜入捜査の類で?」


「違うわよ。れっきとした生徒として、学園に通ってもらいます」


「今更、学ぶことは無いと思いますが」


「刀也にとってはそうでしょうね。でも、あなたも言っていたはず。ここに入局する職員の大半は学園上がり。更にその学園の生徒もほとんどが内側の人間。外の…魔獣との殺し合いを本当の意味で自覚している者は極少数」


「なるほど?」

 

「忌憚の無い言い方をすれば、新人の質が落ちている、という訳。そこで、魔獣との戦闘経験が十分な人を学園に放り込むことで刺激にする。どうかしら?」


 そこまで言って局長は僕の目を見つめる。

 その条件なら他に適任者は数多くいる。

 わざわざ単独で動かし易い戦力をここで使うか?

 なら隊を組んで戦うはず。

 単身で魔獣の群れを潰しにかかる僕では話が違う。

 年齢の問題か…?

 そもそも、学園のカリキュラム側にも問題はあるだろう。

 魔獣と戦う経験積ませろよ。


「他に理由は?」


「欲を言えば!間近で俺TUEEEが見たい! 刀也の性格的に、追放モノは無理だし! 周りの局員は刀也の実力を知っているし! 魔獣を舐め腐っているコミュニティなら、刀也の無自覚俺TUEEEが見られる!」


 …そうですか。


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 ヤバい、絶対ばれてる。

 刀也の目めっちゃ鋭いもん。

 咄嗟に馬鹿みたいな言い訳したけど、あれは納得してないね。

 あれは諦めた、――もしくは、「私が言ったから」従った、そんな所だろう。

 いやあ、信頼されちゃって嬉しいね…


 ノックが響く。


「どうぞー」


「失礼します。本日の報告書です。」


「ありがとー」


 私の秘書だ。

 真面目ではあるが、あんまり私には敬意は払っていないっぽい。

 民間企業のトップとは言え、結構偉いんだけどなー。

 具体的には、国々の首脳陣と対等に話せる位。


「妙霧とのお話は如何でしたか?」


「やばかった。気付いた上で見逃されたって感じ?」


「そうですか… それは良かったです」


 何がだよ。


 報告書に目を通していく。

 あ、刀也のだ。

 …ふーん、旧東北支部周辺で、危険度1~5まで、800体近くを殲滅、ねえ。

 途中で呼び出してなかったら1000超えてたんじゃない?

 

 それにしても、東北、かあ…

 思い出したくもないなあ…


 彼は、大人だ。

 何かを捨てることを知っている。

 きちんと、物事を俯瞰して、正解を選び取ることができる。


 彼は、大人だ。

 痛みを飲み込むことができる。

 どれだけ辛くても、周りに悟らせない方法を知っている。


 もしかしたら、の誰よりも、彼は先に進んでいるのかもしれない。


 彼は、確かに優秀だ。

 

 でも、私には、それが良い事だとはとても思えない。


 まだ、15歳。

 人によってはまだ子どもだと断じる年齢。


 知識も、力も、技術も、魔獣に対抗するための全てを持ち合わせているように感じる。


 それは、どうして?

 生きるために、必要だったから。


 彼をで拾ったことは、間違いではないと断言できる。

 彼の活躍によって救われた命は数え切れない。

 しかし同時に、魔獣と戦い続ける環境に置いてしまった。

 間違いを選ぶと、死が近づくような、そんな環境。

 ――「子どもであること」を捨てなければならなくなった。


 そうなったのは、私たち、大人の責任だ。

 彼の力を当てにし続け、犠牲を強いた、大人たちの。


 彼の笑った顔を久しく見ていない。

 今更笑って欲しいなんて言えないけれど。


 せめて、新しい環境世界で、彼が、心から笑えますように。


 

 

 


 

 

 





 








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