第13話

ー放課後ー



先輩も先輩で早くお姉ちゃんに想いを伝えればいいのに。


料理を運ぶたびに番号を聞かれる先輩を見て思う。


結局学校では本音を聞き出すことができなかった。



「そんなにタカが気になる?」

「ひゃっ!?」


耳元で囁かれるような声に体をビクンと反応させ自分でも驚きの変な声が出てしまう。


──今は志摩先輩に接客のやり方を教えてるんだった!


頭のいい先輩はデンモクの使い方やレジ操作などはマニュアルを見ただけで覚えた。


言葉遣いもいいし、私的にはもうホールで仕事できると思うけど、先輩は一日指導してほしいと。


先輩のようなお金持ちがこんなとこでバイトするなんて。


お金に困ってるわけでもなさそうだし。


社会勉強とか?


生まれながらに将来が決まっていると、どうしても視野は狭まり自分だけの世界に篭りがち。

そうならないために、早いうちから外の世界に触れるのは当然。


理由を聞きたいけど、仕事に私情は挟みたくない。


終わったら聞いてみよ。


「あの先輩。私、ホール手伝ってきますね」


ドアが連続で開く音。人のバタバタ急ぐ足音。


早口になったみんなの声。


店が混雑してきた証拠。


こう忙しいと猫の手でも借りたいんだけど……。


「あの離してもらっても……?」


先輩に手を掴まれて動けない。

見た目の細い体に似合わず力が強いな。


無理に手を剥がそうとするとさらに力を加える。


前橋さんを睨んだときみたいに怖い。


「瑠海は今日一日俺に付いてくれるんでしょ?だったらここにいなきゃダメだよ」


子供のような理屈に一瞬思考が停止した。


噂の天然王子の要素なんてない。飢えた肉食動物みたいだ。


「志摩せ……」


まるで仮面を外したかのような先輩を抱きしめようとしたとき


「おい瑠海!さっきから呼んでんだろ!」


あまりのお客さんの多さに怒りに任せ扉を開ける高島先輩。


勢いがありすぎたのかバン!!という音に驚き、志摩先輩も驚いて咄嗟に私の手を引いた。


支えになるものがなくバランスを崩した私は先輩の上に倒れ込んだ。


高島先輩がどこから見ていたのかわからないけど、状況がかなりマズい!!


私が志摩先輩を押し倒してるみたいじゃん!


すぐに起き上がろうとするも頭と腰に回された手に抑えつけられて、完全に抱きしめられる形になった。


「そこでイチャついてる二人。仕事中だって忘れんなよ」


ため息まじりに言った。


「イチャ…!?ちがっ……これは!」


弁解を試みるも体勢が体勢なだけに意味がないことを悟る。


「特製オムライス注文入った。下準備できてってから早く厨房行け」

「ということなので先輩」


すると先輩はクスリと笑い、手をどけてくれた。


──あれ……もしかしてからかわれた!?


絶対そうだ。

私だけが意識したみいで恥ずかしい。


モテモテで異性に不自由したことのない先輩は、当然のことながら女の子の扱いだってお手の物。


合わす顔もなく下を向いたまま厨房まで走った。


ドキドキしてたのは私だけ。そう……私だけ、なんだ。


こんな状態で志摩先輩の近くになんていられない!











「怒ってる?俺のせいで」

「いや。でもあんまからかうなよ。純粋ピュアなんだから」

「本気だったらいいんでしょ」


そんな、残された二人の会話なんて私には知る由もない。

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