第11話【sideなし】

「瑠海んとこ行ってきた!?」



授業中コソっとそのことを伝えてきた。


そこでの出来事は当然伏せてある。遥は正義感が人一倍強いため、そんないじめのような行動を黙っておけない。


「高島、うるさいぞ」


大声に驚き、ぐにゃっとなってしまった文字を消しながら教師は軽く注意した。


「サーセンした」


適当に謝って横で黙々とノートを取る知也の椅子を足を蹴った。


不意をつかれて転けそうになったが、反射神経が良かったからかバランスを崩しただけだった。


──チッ!!


心の底で本気で舌打ちをした。



「ねぇタカ」

「んだよ。わざとじゃねぇぞ」

「うん。わかってるよ」


相変わらずのお人好しである。


すぐ人を信じるとこは瑠海と重ねてしまう。


「瑠海は俺がもらってもいい?」

「は……?」


その言葉に目を丸くした。


何言っているのか。


そもそもなぜ遥に聞くのか。


「ダメなら諦めるけど」

「いや、いいんじゃねぇの」


で、合っているはず。


「なあ、知……」


知也の表情は初めて遥が“友達”になったときと同じだった。


そんな顔を見ると、もう何も言えなかった。






「つーことで知也がお前と仲良くしたいらしい」


昼飯を食べながら先程のことを瑠海に話すと箸を口に入れたまま固まった。


「まぁ気にすんなよ。アイツちょっと変わってるから」

「変わってる……。あ!そっか」

「ん、なんだ?」


勝手に一人で納得した瑠海。


また、勘違いしたのか。いつもの事とはいえ、もはや一種の病だ。


本人がそれで納得してるなら口をだすことはないのだが。



「そうだお前。バイト代せびられてないよな」

「大丈夫ですよ。それに私が働いてることなんて知らないので」


興味がないのだ。瑠海がどこで何をしていようが。

家のことさえやっていれば、あとは自由。


姿なき家政婦としての扱いにはもう慣れた。

悲しくなり、傷ついたところで家族にはなれない。


諦めたことを今更、欲するほど瑠海は愚かではなかった。


そんな瑠海の心を見透かした遥は静かに目を伏せる。


「そっか。でもあんま落ち込むなよ。お前のことわかろうとしてる奴もいんだから」

「それって志摩先輩ですよね。今日約束してくれたんです。多賀瑠海わたしを見てくれるって


朝のことを話す瑠海は本当に嬉しそうだった。


瑠海の人生は瑠海のものであって遥がとやかく言うつもりない。


遥の方が先に知り合ってる分、素直に喜べないだけ。


「知也はスゲーいい奴なんだ。金持ちだからって見下したりバカにしたりもしない……たまに天然バカだけど」


そうなのだ。


みんなは知也はすごいと言うけれど、彼はまだ親の会社継ぐと決まってるわけでもないし、今はただの志摩知也。


──あぁそうか。


瑠海はただの知也と接してるのだ。だから知也も気になって……。


──俺もただのお前らと接してるつもりなんだけどな。


遥は想いを口にすることはなかった。


「先輩?」

「アイツ……お前の姉貴な。彼氏いるじゃん?なんで付き合ってんの?」

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