第3話 白銀の巨人
逡巡する。
「ふっっ!!」
目の前の巨人に対しての決定打を、探しかねていた。
改めて全身を見る。表面は硬質な金属のような装甲に阻まれ、生半可な攻撃は通らない。
「
そう表現するのが正しい見た目だった。こちらを覗くその単眼には、意思は感じられない。
繰り出す攻撃の一つ一つが圧倒的な質量をまとって私めがけて地面にたたきつけられていく。そのたびに道路の破片やがれきがまき散らされ、それが周りの建物の薄い外壁を傷つけ、窓を割っていく。
が、動きはその見た目どおり鈍いものとなっていた。周りや足元をあまり近づきすぎずに一定の距離を取りながら高速で移動していれば当たらない。
高さは建物の2階ほどの高さで、その巨大な体ゆえに路地裏などの狭い道には入れない。それ自体は利用できそうだが、計算されつくしたこの区画整備ではそんな逃げ道はない。せいぜい建物の中に隠れる程度だろう。
「ふっ!」
地面を蹴って後ろに下がる。目の前をその巨大な片腕がかすめる。
このままでは体力切れで捕まる。逃げ切ること自体は造作もないが、そのあとも追いかけられ続けられるのでは行動に支障が出る。
――――やるしかない。今ここで障害となる
サイクロプスはタワーへの進路をまっすぐ塞ぐように私の前に立ちふさがっている。
腕を振りぬいた後の風圧で吹き飛ばされ体勢を崩す前にそのまま一回転して後ろの建物に垂直に着地する。そこから一気に足を伸ばし前へ急加速する。
「「ブオンッッ」」
目の前からの急接近を許すほど、目の前の巨人は甘くはない。
それを見越して、寸前で足を前に突き出しそれを軸足に体を横に流し、姿勢を低く保つ。直後、巨人の右腕が振るわれ先ほどまでいたところに放射状のひび割れができる。
右へ回り込み、がら空きになった胴体に限界すれすれまで近づく。
「はぁ!」
脚部のわずかな突起に足をかけ、膝に当たる関節へ包丁の先が吸い込まれる。
「「キン‼」」
甲高く火花を散らして錆びた包丁が弾かれる。やはり、ダメージは与えられたような様子はない。グォンと稼働音を響かせ自らの懐に現れた私を大きな単眼がとらえる。即座に目標を切り替える。全身が強力な装甲に覆われているのならば、装甲の薄く可動域に干渉しないために装甲の少ない関節部を狙うのが最適解。
追撃が来る前に後ろに飛びのき距離をとる。ダメージを遠目に確認する。流石に金属、それもあの巨体を支えるほどの強度を必要とするため、当然硬い。が、それは長年の稼働によるものか、錆び付き、歪みが生まれ、その堅牢な守りに隙ができていた。
そんな状態でも一切揺るぎを見せない攻撃の手を考えればいかに脅威であるか十分にわかる。衛星から観測した限り周辺の環境の変化から数千年は経っていることだろう。
いつから稼働を始めたかは確かではないが、定期的にメンテナンスを行えるほど資源があったわけではないと考えると、メンテナンスフリーのタイプであると推察できる。
再び構えをとる。繰り出される攻撃はどれも振りの遅い質量特化の攻撃。攻撃の余波による副次的に発生する高速で散乱する破片にさえ気を付ければ十分に回避できる。範囲こそ広いが攻撃の動きを見れば回避は可能。
最初の攻撃。目の前の巨岩がゆっくりと動き出す。振り下ろした右腕を引き戻し、左脚を軸足に右手足を下げる。
―――横薙ぎが一閃する。そう判断し、状況を認識する。圧倒的な質量を以って加速していく丸太の2本分はあろうかという凶器が引きずるように迫る。その手は地面に強烈な破壊痕を残し破片をまき散らしながら振りぬかれようとしてくる。
状況を判断した直後、前に走り出す。その判断は一見愚かにも見えるが、逆に後退した場合そこに待つのはまき散らされる破片の飽和攻撃と土煙に包まれたが最後、訳も分からず圧倒的質量の直撃を食らい潰されるだろう。
そうとなれば、相手の懐に潜り込むのが攻撃を食らわず、直接反撃に転じられる唯一の選択肢。
急加速した体に合わせ、さらに腕を早く動かさんとその大きな足が地面を強く踏みしめる。
巻き込まれまいとこちらも足のスピードを上げる。どちらのほうが早いか。腕を振るそれが、まるで壁のように感じられる。このまま押しつぶされはしない。とばかりに足元に残像が現れる。
寸前のところで体を腕の中に滑り込ませることができた。スライディングするような格好でそのまま腕の内側まで滑り込む。直後、その後ろを太い鋼鉄の腕が過ぎ去る。
同時に足元まで来ることができた。見上げながら足先を踏ん張り、勢いで前に出る体を地面から起こすと同時に市の足を踏み切りさっきの関節部に包丁を差し込む。
あと少し。
「―――ッ!?」
油断していた。
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