Chapter2-4 ショウの能力

「…………一点、獲られたのか!?」 


その衝撃の事実に、認識が遅れた。ショウはひどく狼狽うろたえてしまう。まずい。場所を変えなくては。ひとまず木の陰に転がり込む。


――其ノ三、また攻撃の判定には、三秒の間隔インターバルもうける。


 さいわいいこの総則チェーンルールが存在したため、一点の喪失そうしつですんだ。


「嘘だろ? ここ、樹海の中だよな。どうやってを当てるんだよ……!」


少年ショウの中には今、確信と疑問が混在こんざいしていた。


確信は、弓矢が音もなく自身の胸を穿うがったという事だ。


しかし、現物は光に包まれて


一瞬だけ視界に入った矢と、その風を切る音。そう、視覚と聴覚で認知していた。


疑問は、二つ。なぜ視覚と聴覚で弓矢を認識できたのか、そして相手選手が弓矢をどうやって命中させたか、だ。


ここは草木が鬱蒼と生い茂る樹海。敵を目視もくしすることはおろか、矢がすり抜けて、標的に直撃するなど有り得ないのだ。


考えられる手段は一つ。


――其ノ五、選手プレイヤーには、特殊な技術が二つ発現している。心臓宝石ハートハードに発現する固有アビリティと、魂現兵装ソフトウェポンに付与された武装スキル。


「まぁ、固有アビリティと武装スキルが肝心……ってことだよな」 


固有アビリティと、武装スキル。この願望実現機構において無限の可能性を秘めた能力だ。


選手プレイヤーに分けへだてなく与えられているそれを、ショウは。


「くそ。僕の能力が何か、まだ把握できてないってのに……!」


まだ、把握できていない。つまり今、この場で相手と自身の能力を理解し、勝利まで導かなければならない、という事。


「必ず引き金トリガーがあるはずだ。なんでもいいから試さないと」


腰元の剣に手をかけて、抜剣ばっけん。試しに大木を切り裂いてみる。これといって何も起こらない。


だが威力は申し分ない。大木が真っ二つになった。慌てて他の大木に身を隠す。


「じゃあ、攻撃が選手に当たらないと意味がないとか……?」


様々な可能性を思考する。相手が近くないと発動しないのか。あるいは時間をかけて作動するものなのか。


前者。そもそも相手の位置が掴めない。後者。いつ攻撃が来るか分からないため、そんな余裕がない。どちらも現実的に実行不可。


更に思考する。実行可能な中で、残った選択肢は……。


「だったら、もう一度攻撃を受けてみるか?」 


正気の沙汰ではない。もうすでに残機ライフを一つ失っているというのに。そこまでのリスクを負ってまで、試すべきか。


しかし根拠はある。それは、弓矢を視覚と聴覚で認識したという事実そのものだ。


高速の弓矢。現実ならば観測はおろか、痛みすら少し遅れてやってくるはずだ。そこにショウの能力の秘密があるはず。


(どうする、どうする、どうする)


他に方法があるんじゃないのか? だがもう思いつかないし、アテもない。


このまま手をこまねいていても、また心臓宝石を矢で穿うがたれるだけだ。


やるしか、ない。


「来い、狩人。僕は彼女の威信いしんけて、負けないぞ」 


冷静になって、感覚を研ぎ澄ます。弓矢を待つ。


怖い。自らの選択に身体が打ち震える。失敗したらもう後がない……彼女のための夢が終わってしまう。


それだけは、嫌だ!


「来た――!」 


一発目とは違う。油断せず、より意識して五感を強化した。しっかりと矢をとらえている。


鼻先をかすめる一矢。回避に成功。歯車が回り出す音がした。


同時に二つ、確信する。決定的な確信。自分の『固有アビリティ』は『五感強化』である事。そして。


「そこにいたのか、」 


狩人の位置と能力。『動かない者の場所の特定』による『曲射きょくしゃ』といえど、そこまで難しい軌道きどうえがけないようだ。


そして黒髪の剣士は、感知の狩人を仕留めるため、走り出す。一歩踏み出した時。


速っ――。


思わず木にぶつかりそうになり、その身を旋回せんかいさせる。間違いない。『加速』している。


(もしかして……僕が攻撃を見切ったから、なのか?)


『見切り加速』。恐らくそれがショウの『武装スキル』だ。剣がさやに収まっていても能力は作動するようだ。


「決断力が道を切りひらくって感じの能力なんだな」 


願いを叶えるために走る。加速、加速、加速。狩人の元まで一直線。


「来るな」と言わんばかりに矢の嵐が。


「それは悪手じゃないか? 使わせてもらうぞ」


二度、回避した。二段階、加速する。一陣いちじんの風そのものになったように視界が目まぐるしく変わってゆく。


見えた。木々の中を走る人の姿が。ついに、追いついた。


「観念しろ! やっと見つけた――」


だが、ショウはそのまま言葉を失い、立ち止まってしまう。なぜなら。


「ま、待ってくれよ! 頼むよ! ぼくはもう残機ライフが一なんだよ!」


先程まで脅威だった狩人の正体が、自分よりも年下の少年だったからだ。しかも残機は一。


その少年は怯え、その場にへたりこんでしまっている。


(今から僕は、この手で彼の願いを断ち切るのか……!?)

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