Chapter2-3 もう一つの世界から

願望実現機構・総則チェーンルール


其ノ壱、選手プレイヤーは六大国予選、六大国代表決勝戦を勝ち抜き優勝者に成れば、何でも願いを一つ叶えられる。敗北者は一生において願いを叶える権利を剥奪はくだつする。


其ノ二、選手プレイヤーは予選では、国ごとに世界フィールドが分かれる。勝利者と優秀者の二名に決勝進出権を付与。


其ノ三、選手プレイヤー武具ぶぐは『魂現兵装ソフトウェポン』として己の想像イメージが具現化する。そして選手プレイヤーの心臓にあたいする胸部きょうぶの『心臓宝石ハートハード』を三度、魂現兵装で攻撃されれば敗北者。また攻撃の判定には、三秒の間隔インターバルもうける。


其ノ四、選手プレイヤー円磁場エリアを超えて三秒間滞在しても敗北者。境界線は、時間経過とともにせばまる。


其ノ五、選手プレイヤーには、特殊な技術が二つ発現している。心臓宝石ハートハードに発現する固有アビリティと、魂現兵装ソフトウェポンに付与された武装スキル。


以上。




◇◇◇




「うう、ん……」


ショウが目を覚ますとそこは、森の中だった。蛍のような幻想的な光の粒が舞う、綺麗な森だった。木漏れ日は薄く白い。ので、認識を改めよう。どうやらかなり奥深い樹海じゅかいのようだ。


もう少し寝ていたいところだが、さすがにそれは悠長ゆうちょうすぎるので。


「さーて、まずは状況の整理からだな」


欠伸あくびとともに起床。まずは自身の装備から確認。


 胸からは宝石のような光が溢れている。これが心臓宝石だろう。


服装は、黒を基調とした軽装だ。外套マントがひらりと風に舞う。


腰には白いさやに収まった剣が装着されている。剣を抜く。剣身けんしんを見てみた。


「これが魂現兵装ソフトウェポンか。なんだこれ……歯車? 珍しいデザインの武器だな」


純白の剣身に、歯車などの機械仕掛けをした投影幻想ホログラムがくるくるとまわっていた。中世的ながら、機械的だ。


不思議だ、とか。どんな能力が秘められているのだろう、とか。そんな感想が浮かぶ中、一番強い感情は。


(めちゃくちゃカッコイイじゃないですかー!)


カッコイイ、だった。あまりに呑気のんきすぎる。ひとしきり装備を眺めて、満足するショウだった。


次に、地面に落ちていたスマホのような端末の確認だ。


「これは確か、願望実現機構に関する色んな情報が入ってるんだっけか」


電源をつけて、ホーム画面へ。そこにはランキング、マップ、備品、暇つぶしのゲームアプリなど。一部、絶対に要らないだろ……と思いつつ、まずはランキングのアプリを開く。ここでは、他の選手プレイヤーを倒した人数で一位から順位がつくようだ。それが六国ごとに分けられている。


「一位はもう131人も脱落させてるのか!? ヤバすぎだろ!」


すでにかなり試合が進んでいた。ランキングによれば、選手1000人の内、約300人が脱落しているらしい。


寝てる時、攻撃されなかったのは運が良かったな……と冷や汗をかくショウ。


「てか僕、最下位かよ。なんか萎えるな、この画面」 


当然だが、まだ何もしていないショウは最下位。見ていて気持ちの良いものではないのは確かだ。


という事で、次にマップを開く。


もう一つの世界の地図は草原、樹海、都市、山岳。大きく四つのフィールドに分かれていた。


「現在地は……ノエレキの樹海もりっていうのか。結構広いんだな」


『ノエレキの樹海』。ここはもう一つの世界の三割ほどを占めている。


「ん、このオレンジ色は……ああ、境界線エリアが迫ってきてるってことか?」


――其ノ四、選手プレイヤー境界線エリアを超えて三秒滞在しても敗北者。境界線は、時間経過とともにせばまる。


地図上の薄橙色の円が、その境界線だ。もう一つの世界を侵食するように狭まっていた。


「同じ場所に長居ながいしてられないな……んで、これはなんだろう」


そして備品というアプリを開く。


「うわ、これ全部無料タダかよ……!? 太っぱらだな」


そこには、様々な項目が。


食料品全般、衣服、寝袋、酒などの嗜好品しこうひんまで。これらが全て、いつでも、無料で要請ようせいする事が可能。どこからどうやって届くのだろう、という疑問は一旦置いておく。


幸い、体調は絶好調。食事も睡眠も必要ない。備品のアプリを閉じる。


それではアプリゲームを……と、日常の中ならベッドに寝転がって早速プレイしていたところだが、ここは戦場の中だ。やめておこう。


……それにしても、静かな地域だ。自然豊かで気分が落ち着く。


ショウはゆっくりと深呼吸して。


「今のとこ周辺には誰もいないっぽいし、まずはこの世界にゆっくりと慣れようかな」


、端末をふところにしまう。


刹那せつな


カシャン、と。硝子ガラスが砕け散るような音が樹海にこだました――。


「え」


その音は、自身の胸のあたりから。恐る恐る、下を向く。


それは星が砕け、粉になって宙を舞うような光景。


少年はすぐにも理解した。


自分の心臓宝石ハートハードが、何者かの魂現兵装ソフトウェポンによって攻撃されたのだ。


――其ノ三、選手プレイヤー武具ぶぐは『魂現兵装ソフトウェポン』として己の想像イメージが具現化する。そして選手プレイヤーの心臓にあたいする胸部きょうぶの『心臓宝石ハートハード』を三度、魂現兵装で攻撃されれば敗北者。


起床から十五分。


ショウの残機ライフはあと、二。

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