よくあるフェアの中止と男子小学生と秘密結社・前編。


北の大地が完全封鎖される3日前。

僕はいつもよく行くコンビニの『来週予告! 北の大地フェア~いま試されるシンフォニー~』という立て看板を見た。よく分からんサブタイトルだなと思いつつ、看板にはフェア限定のメニューが並んでいた。どれもなんかイマイチで、ただ北の三平味噌汁ラーメンは気になった。だがそれ以上に惹かれたのは。


「ほう。幻のマボロシチキン。あの幻鶏を使ってあの幻のチキンの名店とコラボ。幻の油と幻の小麦粉で幻のソースを漬けて揚げた。幻のマボロシ味、ですか」


幻連呼パネエ。だけど食べてみたい。

これは真夜中の無断外出チキンのメインになりそうだ。

来週ってことは1週間後か。


「楽しみですな。さて約束の時間だ」


僕は移動する。


ここ1週間ほど、晴音さんとミカグラに会えていない。学校にも来ていないという。飛鳥曰く『葬式で実家に戻っている』らしい。まあ嘘だと分かる。

彼女の身内はもういないのは知っている。ミカグラも一緒ということは退魔師絡みで本家とか関わっているんだろう。愚物のときみたいになっていないか心配だから動くか迷っているとき、SNSアプリの共同チャットがきた。晴音さんとミカグラだ。退魔師絡みで帰るのが少し遅くなるとあった。やっぱりか。無事ならそれでいい。それなら僕は彼女に集中する。火華お姉さんだ。


僕の所為で人類を辞めてしまった火華お姉さん。そのあまりに強過ぎる力を制御する為にほぼ毎日、決まった時間に特殊時空間でトレーニングをしている。ただこの空間は騎士のお姉さまの二の舞にならない様に時間は弄らずリアルタイムだ。火華お姉さんは迷っていた。所属しているところを辞めるかどうか。火華お姉さんの寿命を縮めてなおかつ知っているのに何もせず放置していたのは事実。でも生活を考えるとなかなか難しい。ちなみに火華お姉さんの希望でカモフラをしている。僕としてはあんなクソコードをカモフラでも刻みたくないが、彼女の状況を考えると分かるので渋々とカモフラした。なので誰にもバレていない。


「はぁっ」


高密度のフレアスフィアを片手に生成し、火華お姉さんはため息をつく。このフレアスフィアは火球を極限圧縮していて、その威力は半径5キロを蒸発出来る程度だ。


「どうしたの?」


僕は晴音さんのチャットに応答しながら尋ねた。

ミカグラはそうではないけど、晴音さんは1時間1回ぐらいメッセを送ってくる。


「……実は、黄金結社の総帥が何故か日本支部に滞在しているの」

「へえー、それがなんか悩み?」

「ええ、まあ、いつまで居るのか」

「嫌なんだ」

「正直、苦手……」


何か思い出したのか。火華お姉さんはため息をつく。

やるせなさそうだ。うーん。僕は子供だから大人のそういうの分からないけど。


「今の火華お姉さんなら色々と出来ると思うよ」

「そうなの?」

「そもそも前に生活とか言っていたけど、火華お姉さん。水だけあれば食べなくても生きていけるんだよね」

「え?」

「だから1日に1杯の水を飲むだけで食べなくても生きていけるんだよ」

「そう……なの?」

「うん。まあ普通に食べたりしても別に平気だし、今までの生活を続けても支障はないから」

「そ、そう……ねえ、正介君。あーし。どれくらい強くなったの?」

「どれくらいって難しいなぁ。でもそうだなぁ……今の火華お姉さんなら僕が前に倒した一のなんとか天っていう人間じゃない女性と互角ぐらいかな」

「それってひょっとして一之天魔……?」

「そう、それ」

「た、倒したって」

「倒したよ」

「あの怪魔の№1……と……互角……」

「今の火華お姉さんならね。完璧に制御できるようになったらもっと強くなるよ」

「……あーし。どうなっていくんだろう……」


火華お姉さんはそう呟いて笑った。

それに関しては僕も何も言えない。最終的には、そうだな。分かりやすく天使階級でいえば『力天使デュナミス』ぐらいで収まるはず。でも頑張れば『座天使スローンズ』ぐらいはいけそう。

まあ、どうなるかは分からない。だけどお姉さん落ち込んでいるなぁ。


「そうだ。今度、僕と一緒にチキン食べませんか」

「チキン?」

「1週間後、コンビニの北の大地フェアにマボロシチキンというのが出るんですよ」

「フェアやるんだね」

「とっても楽しみっ! だからフェアが始まったら一緒に食べよう!」


これで火華お姉さんも元気になるはずだ。

火華お姉さんは笑った。そういうところ子供なんだねって僕の頭を軽く撫でる。

少しは元気出たみたいだ。楽しみだな。1週間後か。ちょっと長いけど、それだけ楽しみになる。それまで真夜中の無断外出チキンは我慢しよう。我慢だ。

1週間後、マボロシチキン。火華お姉さんと一緒に食べる。うん楽しみだ。






1日後。


『———北海道で大地震が発生……しました』


「え?」


2日後。


『地震は未だ収まらず政府は―――』


「……」

「怖いね」

「まだやっているんだ」


皆でテレビを観ている。正直、テレビの中継では霧が深く何も見えていない。

不気味だ。本当に地震なのか。

とても嫌な予感がする。とてもとても嫌な予感がする。


3日後。


『……政府は全土を立ち入り禁止区域にすると指定しました。繰り返します。政府は北海道全土を立ち入り禁止にしました……』


「わぁ、立ち入り禁止って」

「とんでもないことになったわね」

「…………フェアは」

「なに?」

「……っ!」


僕は弾かれるよう家を出た。飛鳥が何か言っていたが気にしない。走っていつものコンビニへ。


「いらっしゃいせー」


店内に入ると、無い。予告の立て看板が無いっ! 予告のポスターも無いっ! 無い無いっ? あれだけ貼ってあった予告の販促物が全て無いっ!


「あ、あの、すみません」


僕は作業をしている店員に尋ねた。


「どうしました?」

「次週のフェアは」

「あー、あれか。あれね。中止になったんですよ。ほら北の大地がああなって、本当に試される大地になってしまって、さすがにフェアとかやれる空気じゃなくて」

「ち、中止ですか……」

「フェアに使う食材も完全封鎖で届かなくなったのもありますね」

「ま、マボロシチキンも!?」

「そうですねー、あれは特に向こうから持ってきているので、発注も出来なくなってましたね。それと明日。フェア中止お知らせの販促物が届くとか」

「あ、ありがとうございます……」


僕は礼を言ってコンビニを後にした。トボトボっと意気消沈して歩く。正直、泣きそうになった。公園のベンチに座る。ガックリとする。


「はああぁっ」


俯いて、でかい溜息が出る。

火華さんになんて言えばいいんだ。一緒に食べようって約束したのに。


「子供。どうしたの」

「どうしたもこうしたもないよ。楽しみにしていたフェアが中止になったんだ」

「フェア?」

「コンビニの来週からやる北海道フェアだよ」

「そう。北の」

「はああぁぁっ」

「子供。悲しいの」

「とってもだ。だが地震ならどうしようもない」


全土の立ち入り禁止や現地の様子が全く見えない伝わらないのは不思議だけど、自然現象が相手なら僕に出来ることは無い。


「地震じゃないとしたら」

「どういうこと?」

「あれは大怪魔『蜃気狼』が復活したのが原因。それをしたのも人間」

「人間が封印を解いた?」

「解除したのは黄金結社の総帥と毒リンゴの魔女」

「たまごボーロが?」


もうひとつは知らない。毒リンゴって白雪姫かな。

たまごボーロなら火華お姉さんが所属している。


「そう。あのマルコ=ポーロの愚かな夢を追う者たち」

「ありがとう。どうすればいいか分かったよ」

「どういたしまして。子供。信じるの?」

「お姉ちゃんが誰であろうと嘘を付いているように見えない」


僕は顔を上げた。少女がいた。荒々しい緑というより翡翠色の長髪をして顔半分が隠れている。それでもこのお姉さんが人形みたいに美麗に整った顔をしているのは分かった。背丈は僕と同じぐらい。ミカグラと同じセーラー服を着ている。

同級生かな。だけど人間じゃない。あれだ。天魔とかいうお姉さんと同じ。まっだからといって殺気も殺意もない。純粋に僕に近付いたんだろう。


「嘘はついていない。だけど信じられない事を言っているの」

「僕は子供だから信じられないことも信じられる」

「子供だから」

「そうだよ。ありがとう。残念だけどフェアは中止になった。これは覆らない。だからといって終わりじゃない。フェアは復活する」


その為に僕がすること。まずはたまごボーロの黄金結社の総帥に詳しい話を聞こう。

火華お姉さんに手伝ってもらう。まずは連絡だ。





4日後。

日曜日の昼。

僕と火華お姉さんは駅前のビジネス街にある立派なビルの前に居た。

全面が特殊加工のガラス張りのビルだ。太陽の光でビルが輝くようになっている。

ここがたまごボーロの黄金結社日本支部か。

そういえばこの市にあるんだな。


「じゃあ行こうか」

「ほ、本当に行くの?」

「僕が出来ることをする」


そう全てはフェア。マボロシチキンの為に。



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