第13話 我慢すればするほど

 なんとか体育館倉庫でのトラブルを乗り越えた俺は、改めて慎二たちに追及されていた。


「で、どうだったんだ!!! 一体何をしたんだ!!!」

「ネタは上がってるんだ! さっさと吐いた方が楽だぞ?」


 机をドンと叩きながら、まるで刑事の取り調べさながらだった。


「いや、だから本当に何にもなかったんだって」

「じゃあ、なんで二人で仲良く閉じ込められてたんだ!」

「それは……あれだ。七森が忘れ物して。俺だけが片付けしてるのに気づいて手伝ってくれたんだ」

「なるほど。密室で二人きり。何も起こらないはずがなく……」


 明彦がうざい。


「そうだぞ。相手は、あの七森だぞ? すこしくらい異性として意識するだろ」

「ないったらない。そもそも俺がそういうことに興味がないことわかってるだろ?」

「だとしてもだ! お前はそれでも男かー!」


 そんなこと言われたって。わからない。

 確かにあの場面、七森に誘われてその寸前までいきそうになった。

 だが、だからと言ってそれが異性としての意識なのか、性欲によるものなのかやっぱり判断できなかった。


 ……七森は。七森はあの時、何を考えていたんだろうか。


 俺は、先ほどまで一緒に閉じ込められていた少女に視線を送る。

 向こうでは、七森が同じように五和たちから何かを追及されているようだった。


 ◆


「帰ってこないから心配したよ」

「ホント。どこにいってたかと思ったら、体育館倉庫に閉じ込められてたなんて」

「あはは……ごめん。心配させて」


 体育館倉庫から戻ると茜音と杏果から心配そうに声をかけられた。

 少し時間は少なくなってしまったが、三人で机を囲んでお弁当を食べ始める。

 そこで倉庫での様子を聞かれるのだった。


「全くだよ。しかも、男子と二人きりだったんでしょ? 何か変なことされなかった?」

「そうよ。星奈可愛いから心配だったんだから!」

「だ、大丈夫だよ。八上くんだったし。彼、そういうことしなさそうでしょ?」

「ああ、一緒にいたの八上君だったんだ。確かに彼ならそういうことはしなさそうだね」

「それはそうかも。他の男子だったと思うと……ああっ、星奈が無事でよかった!」

「あ、茜音……!」


 茜音は、大袈裟に私を抱きしめる。

 確かに八上くん以外と一緒になっていたかと思うと少しだけ怖い。

 まぁ、学校でそんな大胆なことはしないだろうけど。


 ……どちらかと言うと私が八上くんを襲ってたかも。


 その事実に気がつき、少しだけ顔が熱くなる。

 なぜあんなに積極的に行ったんだろうか。

 八上くんが言っていた通り、ストレスが溜まっていたのもある。

 だけど……それだけじゃなくて……。


 ……あの時、八上くんは一体何を考えていたんだろう。


 私は、先ほどまで一緒に閉じ込められていた彼に視線を送る。

 彼もまた、友達から何かを追及されているようだった。


 ◆


 倉庫事件から一日経ち、放課後になった。

 俺は七森との約束のため、すぐに教室を出ようとする。

 ──が。


「昴、今日、家に遊びに行っていいかー?」

「ふむ。最近、行っていなかったな。そろそろみんなでゲームをするのもいいだろう。寂しい男子会の始まりだ」


 教室を出る直前で慎二たちに声をかけられた。慎二たちは偶にうちに遊びに来る。

 俺が一人暮らしをしていることを知っているので、気楽に過ごすことができるということで夏休みなんかは入り浸っていた時もあった。


「あー、悪い。今日無理だ」


 それに対し、俺は正直に断る。


「はぁ? なんだ。バイトでもあるのか?」

「まぁ、そんなとこ」

「それはどれくらいで終わるのだ?」

「いや、わからないけど……」

「じゃあ、それまで家で待たせてもらおう」

「よっしゃ、そうしようぜ!」

「いやいや、待て待て。普通に家は無理だからな?」


 一体何を言い出すんだ、こいつらは!


 しかし、今までも実はこういうことがあった。俺がバイトの間に先に家で待っていてもらうことが。

 むしろ、俺から鍵を渡して、部屋で待ってるように言っていたくらいだ。

 ここにきて、その弊害が来ていた。


「何をそんな急に焦ってるんだ?」

「そうだ。今までは大丈夫だったのに、急にどうしたというのだ?」

「と、ともかく。今日は、本当に無理だからな。絶対にうちにも来るなよ?」

「あ、おい!」


 俺は二人に釘を刺し、これ以上足止めを食らう前にその場から慌てて離れるのだった。




「……なんか怪しいな」

「ふむ。エロゲ伝道師の勘が何かを告げている」


 ◆


 なんとか二人の追及から逃れた俺は、家までの道を走った。

 少し足止めを食らったからもしかしたら、七森はもう着いているかもしれない。


 その予感は的中しており、七森は俺が一人暮らしをしているマンションの入り口でしゃがみ込んでいた。


「わ、悪い。お待たせ」

「遅かったね。何かあったの?」

「いや、友達がうちに遊びに行きたいとか言い出してな」

「えっと、私いない方がよかった?」

「いや、そっちは断った。先に七森と約束してたしな」

「……ならよかった」


 七森は少しだけ不安そうな顔をした後、俺の言葉を聞くと安心したように息を吐いた。


「ほら、これ渡しとく」

「これって……」


 俺は財布から鍵を取り出し、七森に手渡した。

 この家のスペアキーである。


「ほら、待たせとくのも悪いしさ。そういう時は先入っててくれていいから」

「えっ、でも……悪いよ」

「あ、すまん。もしかして、変な勘違いさせた?」

「勘違い?」

「ほら……その彼女みたいな、扱いになるかと思って」


 そういう感情は持たないという契約だ。

 鍵を渡すことによって、俺がそんな感情を持っていると思われると行けないと思い、謝る。


「ううん、そうじゃないんだけど……その、そんな簡単にいいの?」

「別にいいよ。七森なら変なこと起きないだろ」

「信用されてるんだ」

「実際しないだろ?」

「どうかな〜。八上くんが持ってるえっちな本探してるかも」

「やめてくれ」


 持ってないからな?


「七森がいいなら受け取っといてくれ。あいつら……俺の友達も普通にこの家きたりするからさ。見つかったら厄介だしな」

「確かにそうだね〜。私たちの関係言うわけにはいかないもんね」

「そういうこと。まぁ、知り合いが住んでるって言い訳できなくもないけど、余計なリスクはな」

「わかった。じゃあ、お預かりします」


 七森は無くさないように丁寧に鍵をしまう。

 それから俺たちは中に入り、七森を家に案内する。

 そしていつも通り、すぐに寝室へと向かった。


 本来であれば、七森から誘うように来るのだが、今日はなぜか中々こない。

 部屋に入ってからもベッドの上に座り、何やらそわそわとして、髪を弄っている。


「どうしたんだ?」

「いや、えっと……なんというか、昨日、あんだけガッついちゃったから。いざ、さぁ、やりましょう! って改まったらちょっと恥ずかしくなっちゃって」

「なるほど」


 だが、その気持ちが分からなくもない。


 昨日の体育館倉庫での出来事。

 やたらと積極的な体操服姿の七森。少し汗っぽく、そして艶っぽくもあった。


 ……あれは、さすがに強烈だった。


 やっぱり七森でも思い出して恥ずかしいようだ。


「ねぇ、今日は、八上くんの方から誘ってみてくれない?」

「俺から?」

「だって、いつも私からでしょ?」


 確かに。

 昨日もそうだが、いつもは大体七森の方から積極的に来てくれる。俺はそれに合わせて始めるだけだった。


「わかった」


 だからここは俺も男を見せようじゃないか。


「え?」


 七森は俺が承諾すると思ってなかったのか、少し驚いたような顔をする。

 そして俺はそんな七森に近づき、顔を真っ直ぐとみて、そっと頬に手を触れる。


 それに少しだけビクつきながらも少し頬を赤らめ、瞳を潤ませるその姿に俺も変な気分になる。


 しばらくそんな状態でお互いに見つめ合う。そんな七森を見て、素直に可愛いと思う。


 ……なんだか緊張する。


 心なしか俺も頬が、耳が熱い気がする。

 そしてゆっくりと俺は自分の顔を七森に近づけ、首元に優しく唇を触れさせる。


「……ん」


 チゥっと微かにラップ音が鳴り、また顔を離して見つめ合う。


 そして──


「ふふ」


 七森が笑った。


「……なんだよ」

「ごめんごめん。なんだか私達らしくないって思って」

「……そうだな」


 言いたいことはわかる。なんだか改まってこうやって雰囲気を作るのはらしくない。まるで本当の恋人のようだ。


「いつも通り、普通にしよっか」

「だな」

「じゃあ、覚悟しててね? 私、今日は結構、すごいと思う」

「……溜まってるって言ってたもんな」

「うん。それに……昨日拒否されちゃったからね。ちょっといじめちゃうかも」

「お、おう?」


 いじめるって何を……?


 七森のドSの部分が垣間見えたところで七森はもう一度、口を開き提案する。


「……せっかくだから再現してみる?」

「……何を?」

「ほら、私が体操服着て、昨日みたいに迫ってあげるの。たまにはそういうのもよくない?」

「それは……あるの?」

「うん。ある」


 なんで、という野暮なツッコミはいれない。

 だけど、せっかくの提案だ。昨日のあの倉庫での続き。学校と同じシチュエーションというわけではないが、あれを再現できるのだとしたら、断る理由はない。


「八上くんって結構、そういうの好きなの?」

「嫌いな奴いないだろ」

「あはは、そうだね」


 そしてその後、体操服姿に着替えた七森が俺の目の前に現れる。

 いつもより、心臓が高鳴った気がした。

 体操服姿で近づいてきた七森が、今度は積極的に俺の服を脱がし始める。

 そしていやらしい手つきで俺の大きくなったそれを優しく、そしていやらしく触る。


「(簡単にはイカせないから)」

「っ」


 甘くとろける様な囁き声で体が反応してしまう。

 そのままちゅっ、と耳に優しく吸い付く七森。その間にも手の動きは止まらない。

 そして今度は、れろっと耳に冷たい何かが這う。

 ねっとり、そしてぬちゅぬちゅと淫靡な音で責められていく。


 七森の息遣いも相まってすぐに果ててしまいそうになる。

 もうダメだ、そう思った時、手の動きが止まった。


「ふふ」

「七森……?」

「イキそうだったでしょ?」

「…………」

「まだだーめっ」


 昨日、手を出さなかったことに対するお返しと言わんばかりに七森は悪戯に笑う。

 だが、やられってぱなしは癪だ。


「ん……っ」


 今度は俺が七森の服を捲り、愛撫する。七森の弱い部分を重点的に触り、舌をゆっくりと這わせていく。


「は、ち……かみくん……っ」

「っ!?」


 七森は抵抗するようにうめき声を上げるがそれを無視して、責め立てた。

 七森もそれに負けないようにまた俺のものを撫でた。


「はぁはぁはぁ……」

「っはぁ……はぁ……」


 そしてしばらくぎりぎりの攻防を繰り広げた俺たちは息も絶え絶えになりながらも、そのまま一つになる。


 いつも以上に興奮したのはいうまでもない。

 そして我慢した分だけ開放した欲望は止まることを知らなかった。


 ……結局、一箱丸ごと消費してしまった。


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