第12話 ×××しないと出られない部屋
突然のことに固まってしまった。
――ここでしない?
え、いや、何を? 体育の続き?
そんなボケはさておき、もちろん、わかっている。
でもあまりに荒唐無稽な言葉に頭ではわかっていても心は理解しようとするのを拒否していた。
「……八上くん?」
「あー、えっともう一回言ってくれる?」
事実確認は大事だ。だからこそ、あの公園で言ったセリフをもう一度、使う。
「ここでしよ?」
「……なにを?」
「セックス。しよ?」
確認しても現実は変わらない。
やっぱそうだよな。どう考えてもそうだよな。体育は体育でも保健体育の方である。しかも実技。
「女の子に言わせるなんて、八上くんって結構、ドSなんだね。知ってたけど」
「いや、ごめん。そんなつもりじゃないんだけど……」
戸惑う俺を見て、いつものように七森は笑う。先ほど紅潮していた頬はもう通常通り戻っていた。
「その……理由を聞いてもいいか?」
「したいから。ダメ……?」
「うっ……」
いやいやいやいや、まずい。まず過ぎる。 一体誰がこれを断れようか。
上目遣いで美少女に行為を懇願される。
これだけで脳みそが沸騰して、何も考えられなくなる。
しかし、よく考えてみろ。ここは学校だぞ? 先生に見つかった瞬間に俺も七森も終わる。退学は免れないだろう。
俺はどうにか理性を取り戻し、鉄の意志で迫る彼女を少しだけ押しのけた。
「……ぁ」
小さくこぼれた残念そうな声にまた心がグラつきそうになるが、深く息を吐いて冷静になる。
「その理由をちゃんと教えてくれ。いくら俺たちがソウイウ関係だからってリスキーなことはしたくない」
「……ごめん」
俺の言葉に七森はハッとしたような顔をして謝った。
なんだかその表情に申し訳なくなってくる。
「ほら、しようと思えば、いつでもうちでできるだろ? 何か焦ってるようにも思ったけど。話したくないなら、別に話さなくてもいい」
「――……ったの」
「え?」
小さく呟いた言葉が聞き取れず、俺は彼女に聞き返す。
「だって、待ちきれなかったの!!」
「……!」
体育館倉庫という密閉された空間で彼女の声が反響する。思ったよりも響いて俺の耳に届いたせいで少しだけ周りのことが気になって見渡す。
「待ちきれなかったって?」
「今日は、また習い事あるし……できないでしょ? 次まで待てなくって。今だったらいけるかなって思って」
待て待て待て待て。ホントにやめてくれ!!
こんなこと言われたら俺の理性が暴走してしまう。
歯を食いしばっても耐えなければならない。
「それは分かったけど……今まではそんなことなかっただろ? どうして急に?」
「溜まってるから」
「ストレスか」
「うん」
思った以上に溜まってるらしい。家で何かあったのだろうか。
前に俺との行為がストレスの発散だと言っていた。
前にしたのは、4日前だ。
「……性欲も溜まってる」
随分はっきりと言うなぁ……。
溜まりすぎるとこんな風に暴走するのか、と意外な一面に驚いた。
「それにしたって、学校ではさすがにまずい」
「うん……」
「今日は無理なのか? 習い事別の日にしてもらうとか」
「それは多分、難しいと思う」
「明日は?」
「明日はないけど……」
「申し訳ないけど、俺から言えるのは明日まで我慢してくれってことだけだ」
今のところ解決策はこれ以外にない。
これ以外に解決策を出せない無力な自分が嫌になる。そして気持ちが揺れそうになっていることも。
「ここで何かあって困るのは、俺も七森も同じだろ?」
だが、一時の欲に目が眩んですべてを失うのはバカげている。
それこそ、高校を卒業できないなんてなれば、俺も七森もその後の人生すべてが変わってしまう。
「……そうだよね。わかった」
納得はできていないが、理解はしてくれた様子。
そのことにホッとして息を吐く。
「じゃあ、先に出ててくれ。俺は散らかったこれ、片づけておくから」
「ううん、私も手伝う」
「……ありがとう」
特に拒否することもなく、七森の提案を受け入れ片づけた俺たちは体育館倉庫を出ることにした。
一緒に出るところを見られるとまたややこしいことになりそうなので、七森に先に出てもらうようにお願いする。
――しかし。
「……あれ?」
「どうした?」
七森は倉庫の扉を強く引こうとするが、扉が開く気配がない。
「開かないの」
いや、そんなまさか。もしかしてからかうため、わざとそう言ってる?
そんなことを思いながら、俺も七森に変わり、扉を引く――もびくともしない。
「……」
「……」
「……閉じ込められた」
「だね」
俺の一言に七森は、まるで他人事のようだ。
嘘だろ?
俺は現実を受け入れられなくて、もう一度手に力を籠める。
しかし、現実は変わらない。
「多分、先生が鍵かけちゃったんだね。どうする?」
「どうするも何も……どうしようか」
体育の後で俺たちはスマホも持っていないので外部と連絡を取ることもできない。
つまり完全に詰みである。
「誰かが気が付いてくれるまで待つしかないな」
「そうなるね」
七森は潔く諦めると扉から離れていく。一体この倉庫でどこに行くつもりかと思ったら、マットの上に腰を下ろし体育座りした。
「何してるの? ほら、こっちおいでよ」
七森は自分の隣をポンポンと叩くと俺を隣へ誘う。
言われた通り、俺も七森の隣に腰を下ろした。
「……」
「……」
完全な密室で七森と二人きり。
しかもさっきはあんな会話までしていたところだ。一体どうしろというのだろうか。
こんなの変なことを考えずにはいられない。
と、俺が邪念と闘っていると七森が横で小さく呟いた。
「なんだかこれってあれみたいじゃない?」
「あれ?」
「セックスしないと出られない部屋」
「ごほっ!?」
唾が器官に入り、せき込んでしまった。
七森!? 一体なんてこと言い出すんだ。
超が付くほどの清楚で可憐な少女から聞こえてきたのは、よくネットに落ちているような卑猥なミーム(ミームなのか?)
「だってそうじゃない? 私がそういうつもりで誘って閉じ込められたんだし」
「……まさか仕組んだわけじゃないだろうな?」
「……もう。いくら私でもそんなことしないよ。多分」
「最後の一言ですげぇ説得力薄まった」
「冗談だって! 本当に私じゃないよ? 偶々だからね」
……だよな。よかった。いや、なにもよくない。
「でもそれはあれだろ? そういう関係になってない男女が閉じ込められる奴だろ?」
「そうだった? でもそうじゃなくても別によくない?」
「よくない! そこは、初心な男女がやるから余計に情緒が……」
「大丈夫? 口滑らせてない?」
……大丈夫じゃなかった。
「と、ともかく。例え、俺と七森がしたところで出られるようになるわけでもないだろ?」
「本当にそうかな? 試してみる?」
「……っっ」
七森は襟首を人差し指でクッと引っ張り、こちらに問いかける。
丸い襟から覗く胸元からキャミソール越しに水色の下着が見え、思わずゴクリと生唾を飲み込んだ。
「あ、汗掻いてるし、臭いぞ?」
「私は構わないよ。八上くんの汗の匂い、嫌じゃないし」
「な、七森だって汗掻いてるだろ?」
「嗅いでみる?」
そう言って七森は俺にどんどんと迫ってくる。
汗の匂いなんて全くしない。ほんのりと甘く、爽やかですべてを包み込むような柔らかい匂い。
――ああ、ダメだ。さっきはあんなこと言ってたのに。
俺の意志なんて脆く崩れ、そしてゴミクズのようにクシャクシャに丸められて捨てられてしまった。
七森の吐息が耳をこそばせる。そして優しく大きくなる俺のあれを撫でる。俺も自然に七森の胸に手が伸びた。
「んっ……」
甘い声が漏れる。
抗うことなんてできない。このまま身を委ねよう。
そう脳が考えるのをやめたとき。
――ドンドンドン!!
大きな音が入口の扉から聞こえてきた。
「おーい、昴いるかー? まだ片づけって……ってあり? 鍵閉まってんのか。じゃあ、もういないか」
「――っ。慎二! いる! 中に閉じ込められてる!!」
俺は一瞬で我に返り、大声で助けを求める。
「あれ? ふはは、マジでいるじゃん。何してんの!?」
「悪いけど、鍵、先生からもらってきてくれ!」
「あいよ。ちょっと待ってろ」
扉から人の気配が消え、走り去る音が聞こえる。 慎二がどうやら鍵を借りに行ってくれたようだ。
「……と、とりあえず離れようか」
「……うん」
俺を半分押し倒していた七森は、恥ずかしそうに俺から距離を取った。
その後、鍵を持ってきてくれた慎二により、なんとか無事に出られた俺たちは着替えてから教室に戻るのだった。
七森と二人きりで閉じ込められたことを知った慎二からはしつこく状況や理由を聞かれたり、血走った目で羨ましがられたが適当に誤魔化して、何もなかったと答えておいた。
倉庫を出るとき、七森が不満そうな顔をしていたのは……多分気のせいじゃない。
……本当に何もなくてよかった。
耐えた自分を褒めてやりたくなった。
そしてできなかったことを後悔する自分もいた。
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