第2話 正義を求める王

 エリオの旅は、荒野を越えて戦火の匂いが残る国へと続いていた。


 かつてこの地には繁栄した王国があった。しかし、隣国との争いが激化し、幾度もの戦で大地は荒れ果てていた。王は「正義」の名のもとに兵を挙げ、敵を討つことで平和を取り戻そうとしていた。


 「正義とは、力によって守られるものなのか?」


 この問いを胸に、エリオは王宮の門をくぐった。




 荘厳な玉座の間。豪奢な金の装飾に囲まれた王は、威厳に満ちた姿でエリオを迎えた。


 「旅の哲学者よ。貴様は正義を語るというが、戦場を知らぬ者に何が分かる?」


 王の声には重みがあった。それは多くの命を背負ってきた者の声だった。


 「陛下。私は戦を知らぬ者ではありません。私は、人々の心に生まれる葛藤を見つめてきました。陛下の正義とは何でしょう?」


 王は迷いなく答えた。


 「民を守ること。それこそが我が正義だ。侵略者を討ち、脅威を払うことが平和への道だと信じている。」


 エリオは静かに問い返した。


 「では、その平和は誰のためのものですか?討たれた者の家族、涙を流す子供たちの平和は、どこにあるのでしょう?」


 王の目がわずかに揺らいだ。


 「……では、侵略を受けても黙って見過ごせというのか?」


 「いいえ。私は争いを否定しているのではありません。ただ、正義という名のもとで行われる暴力が、さらなる憎しみを生まないか。それを問いたいのです。」


 王はしばし沈黙した。エリオの言葉は、まるで風が砂を払うように王の心に届いていた。




 その夜、王は重臣たちを集め、再び戦を起こすべきかを議論した。


 「我々は剣を振るうことで平和を得るつもりだった。しかし、剣の先にあるのは、さらなる争いかもしれぬ。」


 王の言葉は重く響いた。


 「もしも対話の道が残されているのなら……私はそれを選びたい。」


 翌日、王は敵国に使者を送り、和解の道を探ることを決断した。剣を収める勇気を持った王の選択は、やがてこの地に新たな未来をもたらしていく。


 エリオはその様子を見届けながら、静かに歩みを進めた。


 「正義とは、ただ力で示すものではない。 それは、人が他者と共に生きるための選択にこそ宿るものだ。」


 彼の旅は続く。言葉が生む現実を見つめ、次なる問いを探し求めて——。

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