第23話 駅前広場で銃声が
コロナ流行が始まっても竹志の職場からは職員も利用者も感染者は出ることなく、二年ほどが過ぎていた。
大変なのは濃厚接触者の扱いで、自分が感染していなくても家族やその職場の人や学校の同級生などが感染するとその人も出勤停止になったり、利用者の家族が感染したと聞くとその利用者を部屋から出さない隔離措置を取ったりすることで、コロナ感染とウイルスの広がりを恐れるあまりの労力がものすごかった。
認知力の低下により、ウイルスとか隔離とか言っても理解できない人に部屋からずっと出ないように言い続けるのは大変で、コロナウイルスへの感染自体は流行初期とは異なりほとんど重症化しなくなっているにも関らず大袈裟とも言える対応が続いているのは、決められたことには意味がなくても従う日本社会の特徴丸出しという感じだが、世の中、または職場全体の雰囲気的に、何も言えない。
加部元首相が演説中に銃殺されたのは、十年以上前に鳩丸元首相の演説を聴きに行ったのと同じ駅前広場だった。竹志はたまたま現場を通りがかった。
加部元首相が応援演説に来る、などということは知らず、選挙前だが人民党の候補の演説なので興味もなく通り過ぎ、買い物へ行こうとしているところだった。
拍手の轟音が聴こえたので車道の方を見ると、加部元首相が壇上に上がったのが見え、ああ、応援に来てるのか、と思い、そう言えばこの同じ場所で昔鳩丸氏の演説を熱心に聴いたな、あの後日本は何も変わらず何も良くならなかった、生活は苦しいままだ、と、民衆党政権を倒して、悪夢の民衆党政権、とうそぶいた張本人を目の前にして、醒めた気持ちで思う。
銃声なのか何なのか、鈍い音とともに煙が立ちのぼったかと思うと、その張本人がよろめくのが遠目に見え、回りの人達が急に激しく機敏に動き出した。次の瞬間、一人の男に数人の警備の人間が覆い被さっているのが目に入る。元首相は倒れたままで応急処置らしいことをされている様子だが、ぴくりとも動かない。
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