冥王星の二人

 青年が片道限りの無人船で冥王星に到着すると、そこには少女が暮らしていた。

 人間ではなく、ロボットの少女だった。青年は驚いた。確かに地球から遠く離れている土地だが、ロボットがいるとは思わなかった。

 少女も驚いたようだった。確かに火星から遠く離れている土地だったが、人間が来るとは思わなかったのだ。

「地球出身ですが、ロボット撲滅法の反対活動をしていたら、捕まってここに流刑になったんです」

「奇遇ね。あたしも火星の国会で人間絶滅計画に反対して、ここに流されたの」

 つまり二人は平和活動家であった。既に互いに好意を持っていた。


 流刑地だから、もちろん二人は暇だった。色々なことを語り合う。

「星間戦争はいつ終わるんでしょうね」

「残念なことに、火星が勝つわ。ロボット解放軍は大量破壊兵器を作っています。人類は毒ガスで絶滅するの」

「残念ながら、地球が勝つかもしれない。地球防衛軍も大量破壊兵器を作っている。火星に錆の雨を降らせて、ロボットは一人も動かなくなる」

 そう言って、青年はため息をつく。

「なんで殺し合うんだろうね。人間もロボットも、皆愛し合えばいいのに」

 それを聞くと、少女はため息をついて答えた。

「この冥王星では、少なくともそうよ」

 要するに彼女は寂しかったのだ。二人の生活が始まった。


 二人は毎日、故郷の青い惑星と赤い惑星を望遠鏡で覗きながら、互いに想いあって幸せな生活を送った。

 だが冥王星は植物が育たなかった。育てるには太陽の光が足りなかったのだ。植物がないものだから酸素もなかった。食料は無人船に積んだ分しかなかった。

「ひどいわ」

と少女は苛立って言った。

「地球の流刑は流刑じゃないのね。これじゃ死刑よ」

「そうだよ。ロボットと違って、人は死ぬものだから」

 青年は笑った。最初からそのつもりだったのだ。一人で死なないだけ、ありがたいと思っている。


 青年は食料が尽きると痩せ細って死んだ。

「地球では、ここは定番の流刑地の一つです。また僕と同様に、政治犯が流されてくるかもしれない。そうしたらその人とも、楽しく暮らしてやってください」

「ここは火星の流刑地でもあるのよ。ロボットが来たら?」

「その場合も楽しく暮らしてください。いつか言ってたじゃないですか。冥王星を、人間とロボット、みんなが愛し合って暮らす惑星にしてください」

 青年の遺言を聞いて、少女は答えた。

「約束するわ。きっとそうするわ」

 少女はロボットなのに、青年と一緒に涙を流せるような気がした。少女は生涯で初めて、人間のために墓標を作った。


 それから少女は待ち続けた。しかし何十年経っても、人間もロボットも来なかった。望遠鏡から覗くと、2つの惑星はいずれも少女を嘲るように、赤と青に光っていた。

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