百合作品短編集

@Siaru-

『二人の夜』


 終電を逃した二人は、駅前で顔を見合わせた。


「……どうする?」

「うち、来る?」


 誘った本人も驚くほど、あっさりとした声だった。


 ***


 部屋のドアを開けると、がらんとしていた。家具もほとんどなく、隅にぽつんと観葉植物が置かれているだけ。


「……何もないんだね」

「引っ越してきたばっかりだから」


 適当に嘘をつく。もう半年も住んでいる部屋だった。


「飲み物とかないけど」

「別に、朝まで寝るだけでしょ」


 電気を消すと、暗闇が広がる。窓の外から微かに街灯の明かりが差し込むが、顔は見えなくなった。


 しばらく沈黙が続いた。


「ねえ」

「うん?」

「こういうのって、さ……」


 声が、そこで途切れる。


「……うまく言えないけど、なんか、不思議だよね」


 暗闇の中で、小さく笑う気配がした。


「うん、たぶんね」


 ふわりと手の甲に何かが触れた気がした。でも、確認する前に離れていく。


 それきり、二人とも黙ってしまった。


 外では、始発電車の音がし始めていた。


「そろそろ行くね」

「うん」


 玄関のドアが開いて、すぐに閉まる。


 静かになった部屋の隅で、観葉植物の葉がわずかに揺れていた。

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