第8話:魔王の主
レティシアさんの家に帰ろうと、俺は歩き出す。
「アン、生きていてくれよ。アンが生きていてくれないと俺……」
*
しばらく歩いて、レティシアさんの家につくところなのだが、なんとレティシアさんが門の前で待っているではないか。
レティシアさんはこちらに気づき、手を振ってきた。しかし俺の残念な表情をみて手を振るのを止めて、俯いてしまった。
「レティシアさん、孤児院にアンはいませんでした。これから俺は……」
レティシアさんは俺の右手を両手でとり、
「大丈夫です。私たちでできる限りのことをつくしましょう」
俺は頷いた。
*
俺は自分の部屋に戻り、明日からどう行動するか計画を立てようと紙を用意した。
アンはまず、孤児院にはいなかった。レティシア様が孤児院にいると聞きつけたころにちょうど、アンを引き取った者が現れたということか。
たしかに無理もない。髪が赤紫色がかっていて、容姿も整っているという最高な少女だ。
だから、変な男につれさられたという事件を視野に入れといていいのかもしれない。
そうすると今頃……
やめやめ!! 疲れた思考で考えても悪い方向に物事を捉えてしまうだけだ。
今晩はもう寝るか。そして俺は就寝についた。
*
俺は目を覚ました。体全身が痛かった。イテテと起き上がると目の前の光景に息を飲んだ。
周りを見渡しても、赤黒いごつごつとした石の地面が広がっていただけなのだ。
そして何より、言い表せないような恐怖が空気を伝ってこちらに向かってくる。
そいつはこちらに近づいて来ているようだったため、俺は立ち上がって逃げようとした。
だが、足がすくんで立ち上がれない。だれだ! と叫ぼうとしたが声が出なかった。
そして俺の前に人影が現れた。
「我の名は、リリシヤ、この世界の元統一者の子孫であり、人間界を滅ぼす魔王だ」
俺はこの女性が魔王だとすぐに納得した。圧からしてレベルが違う。
「リリシヤか、なぜお前は俺をここに呼んだんだ! 」
リリシヤは俺に近づいてきた。俺は咄嗟に逃げようと判断したところまだ、足がすくみ立ち上がれなかった。なので俺はリリシヤに向き直った。
「もう一度聞く、なぜ俺をここに呼び出した!」
するとリリシヤは不敵な笑みを浮かべた。
そしてリリシヤは上品に、俺をここに呼び出した経緯を話しだした。「じつはこちらの世界にくるまでのお主の生活を、ずっと見ていたのだ。
しかし、この世界の国王が我らを倒すべく、勇者を召喚しようとした。
召喚士に魔力をかき集めさせ、お主の世界に干渉できるようにし、転生と呼ばれるものを行った。
しかし彼らは転生させる人の近くに転生の魔法陣を召喚しようとしたが、魔法エネルギーが暴走し、その時の地面のひび割れに入ってしまった者は、2つの時空間の間でさまようことになった。
そしてその事件でお主の妹が傷つけられてしまった。お主の絶望的な目と悲痛に、我は耐えられなくなり、我はお主をこの世界へ直々に転生させた。
お主が見つけようとしている人がこの世界にいる、という可能性があると知ってほしかったからだ。
しかし、お主はこの世界でたった数日のうちに魔法をマスターし、グラリスを撤退まで追い込んだ。
そう、お主には才がある。我のためにその力を振ってほしいと考えたため、ここ魔界に飛ばした。」
「俺はいま、アンを探すので必死なんだよ。なのによくも呼び出しやがって!」
リリシヤはため息をつきこう言った。
「これを見ろ……」
俺はリリシヤの言われた通り、空中に出てきた画面を見た。そこには、豪華な椅子に座っている50代半ばの国王と召喚士の代表が話している映像が映っていた。
「国王陛下、いくら召喚士の魔力を集めても、今の技術では魔力が暴走するのは揺るぎない事実です。
転生の途中で暴走してしまうと、彼らの現実世界での死はもちろん、無の空間に永遠の命として囚われてしまいます。」国王陛下が椅子を後ろに倒す勢いで立ち上がった。
「黙れ。俺に歯向かう気か。俺は国王だぞ、俺が考えたことはこの国のすべてなんだ。俺に意見を申し出たお前は、それなりに覚悟はあるのだろう?
これから、お前を不敬罪として死刑とする。」
自分勝手で巻き込まれた人のことを考えない国王に対して、俺は怒りの感情が心の底から込み上げてきた。
リリシヤはしゃがみ、座り込んでいる俺の頭を撫でた。
「現国王は、お前の故郷にいた大切な人の命を奪った、どうだ?私と一緒に彼を懲らしめはせぬか?」
俺は悩んだ末にこう言った。リリシヤの手をしっかり握って「協力する」と。
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