魔王と面会-スペード街編-

第7話:行方不明

ゴンとリンタを見送った後、俺らはスペード街に入った。


スペード街は外門(がいもん)と呼ばれる門がある。外門には大きな門番がいた。その門番が、密輸などの犯罪行為をしている商人を取り締まっているらしい。


「アン。すまないが先にスペード街に入っていてくれないか? 俺はこの世界のパスポートなどもっていないから入れるかどうかわからない」


アンは不安そうな顔をして「蓮とはバイバイなの? 」と言う。


蓮は首を振る。


「後ろの荷台の中に潜入する。後ろの荷台を引いている人から微かに血と魔物の匂いがする。多分討伐してきた魔物をあの中に入れているのだろう。そして新鮮に保つため、藁(わら)などで覆っているのではないかと。そこに俺が入ればたぶんバレない」


俺はまず、荷台に入れるよう少し遠いいところに小型の罠を詰めた、いわゆる爆弾を置いた。


俺はそれを着火して、怯んだ瞬間に後ろの荷台の藁へ潜った。


潜った後、板の隙間から腕を出し、アンに親指を立てた。


荷代はそのまま門の中走っていく。


無事門番にはバレなかったが、完全に出るタイミングを失った。

「まずいことになったぞ。様子を見て出ようとしたが、……なんだこれ?」


かぐわしい匂いと滑らかな長い毛、もしやと思った頃には遅かった。


「ふぅ、無事バレずに着きましたね。スペード街」


中年くらいの男だろうか。

「気を抜くなよ。最後まで」


もう1人は少し若いのか? どうしようか、ここで、「入ってましたー」なんてことになったら...

考えただけでゾッとする。


中年の男が商品を塞いでいる板を叩いた。

「今男の声がしたぞ! 」


(やべ)


「お前、もしかして男を間違えて入れたのか? 」冗談っぽい口調で若い男がそう言った。


しかし次の瞬間、中年の男が若い男に怒鳴りつけた。

「あのな、お前いちいち上からでうぜえんだよ。

先にクライン商会に入っていたってだけで威張るんじゃねえよ。」中年男は舌打ちする。


クライン商会とはなんだろうか? なんとなく察しはついているのだが、商会というグループがあることに

俺は感心しーー


若い男は中年の男に飛びかかり、腰に装備していたナイフで中年男性の喉元を掻き切った。

その後、何度も何度も腹部にナイフをさしていた。


それを板の隙間から見ていた俺は吐き気がして、声をだしてしまった。


すると次の瞬間、男性は板にナイフを刺してきたため、俺は急いで板を両手で押しのけて逃亡する。

しかし、男は怒り狂いながらこちらを目掛けて走ってくる。


男は風魔法を使って速さを増している俺に、追いつけないと察したのか、男はナイフを俺に投げた。

俺の腕にそのナイフが刺さる。


俺は声を荒げながら全力で走った。


すると、光が見えてきた。表通りだと俺は気づき、風魔法を増した。


表通りにでると男は追って来なかった。


俺は痛みに耐えながらナイフを腕から引っこ抜き、左腕の服の裾をナイフで斬り、それを右腕に急いで巻いた。


俺は疲れ果て、壁に背中をあずけて、寝てしまった。





俺はゆっくりと目を覚ました。そこは、豪華な調度品に囲まれた、広々とした部屋だった。窓からは美しい庭園が見え、穏やかな陽光が差し込んでいる。


「ここは……? 」

俺が呟くと、そばに控えていたメイドが口を開けた


「お目覚めになられましたか、私の名前はリリエでございます。

ここは、レティシア様のお屋敷であります。」


リリエは丁寧に説明し、俺に暖かいお茶を差し出した。

「リリエさん? あの、俺は……? 」


俺はまだ状況が飲み込めずにいた。


「貴方様は、裏通り前で倒れていらっしゃるところを、

レティシア様がお見つけになり、介抱なさいました」


リリエは微笑みながら答えた。


「そうでしたか……。あ、お茶ありがとうございます」


俺はリリエに礼を言い、お茶を口にした。


「あの、レティシア様とやらに、お話しさせていただきたいのですが……」

俺が尋ねると、リリエは少し戸惑った様子を見せた。


「レティシア様は、少しお出かけになられています。ですが、間もなくお戻りになるかと……」


俺はリリエに礼を言い、部屋の中を見渡した。豪華な調度品、美しい絵画、そして窓から見える広大な庭園。この屋敷の主が、ただの貴族ではないことを物語っていた。


しばらくすると、部屋の扉が開き、一人の女性が入ってきた。絹のような美しい銀髪、宝石のような青い瞳、そして気品に満ちた佇まい。彼女こそが、レティシアだった。


「目が覚めたようね」

レティシアは優しく微笑み、俺に近づいてきた。


「はい、レティシア様。ご親切なご厚情、感謝いたします。あの、俺は……蓮といいます」


蓮は自己紹介をし、改めてレティシアに頭を下げた。

「蓮ね。私はレティシアよ。レティシア様なんて堅苦しい、どうぞ、楽にしなさい」


リリエさんが驚いた。「レティシア様そのような呼び方は……」


「いいのよ、私のはじめてのお客様だもの」


リリエは害虫を見る目で俺を睨んできた。


レティシアは、ベッドと向かいに腰を下ろした。


「蓮、あなたは、どこから来たの? なぜ、あんな場所にいたの? 」


レティシアの問いに、蓮は少し戸惑った。しかし、レティシアの優しい眼差しに、蓮は少しずつ自分のことを話し始めた。魔王の書物のこと、アンのこと、そしてグラリスのこと。


レティシアは、蓮の話を静かに聞いていた。そして、全てを聞き終えると、穏やかな声で言った。


「あなただったのね! グラリスを討伐したのは! 」


「討伐? 俺はただ……」

「これは今すぐにお父さんに知らせないと! 」


「そうと決まれば……アンさんのこと私も、協力するわ」


レティシアの言葉に、俺は希望を感じた。


レティシアさんはリリエさんに指示を出し、アンに関する情報を集め始めた。俺も、レティシアに協力し、アンの手がかりを探すことにきめた。





数日後、レティシアは俺に一つの情報をもたらした。

「アンに似た少女が、スペード街の南側にある孤児院にいるという情報が入ったわ」


「そうですか!!」と俺は希望に胸を躍らせ、レティシアに礼を言った。

「ありがとうございます、レティシアさん!すぐに行ってきます!」


俺は孤児院へと向かおうとしたが、レティシアは俺を呼び止めた。

「蓮、気をつけて。クライン商会の者たちが、まだここらへんにいるかもしれないわ」

俺はレティシアの言葉に頷き、孤児院へと向かった。


孤児院は、スペード街の南側にある、古びた建物だった。俺は孤児院の門を叩いた。

するとご老人が出てきて俺はアンについて尋ねた。


「アン……?そんな名前の少女は、ここにいません」

孤児院の院長は、俺の問いに首を振った。


俺は落胆した。

「どこにいるんだよ、アン……」

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