32話 修正版
「お待たせ」
「もう、良いのか?」
「話したいことは話せたし、今度は母さんの番だよ」
「そうか。では、妾は少し話してくる。そう時間は掛からぬから伊神と待っているのじゃよ?」
「了解。なんなら、長く話していても良いからな?」
待つのは幾らでも出来る。だけど、話せる機会はこれで最期なんだ。せっかくの機会を俺達に気を遣って無駄にして欲しくない。
「なら、甘えるとしようかの」
「うん。心残りのないようたっぷりと話してくると良いよ」
俺の頭を一撫でしてから扉の先へと入って行くナヨ――母さんを見届けて、俺は少し離れた位置に居る伊神へと近づく。
「ありがとう。お陰でいっぱい話せた」
「それは良かったよ。で、どうだった?久しぶりに会った気分はさ」
「勇気を出して会いに来て良かった。もし、会わずに別れていたら本音を聞くこともなかったし。何度も言うけど、ありがとう、伊神」
「律儀だね、うん。悔いが残らないのなら良かったよ」
最初こそ、あんまり良い印象はなかったけど、優しいよな、伊神。
煽ることもあるけど、真剣な場面では真剣だし、今も気を遣って中の声が聞こえない離れた位置にいるし。
今更ながら、伊神のことを知らないことに気づかされる。
「なぁ、伊神。あんたは何者なんだ?」
「僕かい?何者に見える?」
「分からないから聞いてるんだけど?」
知ってたら聞いてない。
知らないから聞いているんだと、瞳に込めて睨む。
伊神は苦笑し、肩を竦めた。
「僕はただの人さ。生まれも出自もただの人。ちょっと特別な力を持ってるだけのね?」
「嘘だぁ……」
心の声が思わず口を突く。
人の寿命を超越しているっぽいのに、ただの人な訳あるか!
吐くのならもっとマシな嘘を吐けよ。
溜め息を1つ吐く。
「言いたくないのなら良いけどさ。何時かは聞かせてくれよ?」
「時が来たら、必ず」
「絶対だぞ?その時になって、やっぱなし!は駄目だからな?」
「分かった分かった。必ず教えるよ。なんなら、この命に賭けようか?」
「そこまで求めてない!!」
慌てて否定すればクスクスと笑う伊神。
せっかくの雰囲気が駄目になったじゃん。
しんみりした空気は何処かに消え、場に満ちるは陽気な空気。
薄暗い空間に居るとは思えない空気感に風を引きそうだ。
「……これが終わったら伊神はどうするんだ?」
「僕かい?この地を離れる予定だよ。これでも、多忙の身なんでね」
「マジか……もう少し居られるのならお礼をしたかったんだが……」
「ははは、それは残念だ。ちなみに、何をしてくれる予定だったのかな?」
冗談混じりに問い掛けられた質問に俺は目を光らせれる。
「何なら嬉しい?」
「逆質問か。う~~ん、そうだなぁ………あっ、なら、飲んで欲しい物があるんだけど」
「飲んで欲しい物?」
思わず眉を顰める。
お礼代わりに飲んで欲しい物ってなんだろうか?
異空間に手を突っ込んだ伊神が暫くして取り出した物を見て、俺は凍りつく。
「聞くけど、これなに?」
「
瓶に注ぎ込まれた黒い液体。
揺れからして、とてもねっとりとしていそうだ。
これが、改良版。
思わずゴクリと唾を呑み込む。
今からこれ飲まなきゃいけないのか?
正直に言えば、飲みたくない。
幾らお礼とは言え、流石にこれは無理だ。
「なぁ、流石にこれを今から飲めとか言わないよな……?」
「何を言ってるのさ――――飲んでもらうよ」
「い、いやぁ~、流石にこれは飲めないと言うかぁ……なあ?」
明らかに飲み物じゃないだろ。
及び腰になりながら逃げ道を探す俺の目の前で、異空間から取り出したコップに瓶の中身を注ぐ。
異臭はしないが、ヤバい物だと本能が警邏を鳴らす。
「もっと他のでお願いします!」
「無理。嫌がると思ったからこうして今、飲んでもらおうと思ってるんだよ?治したいのなら頑張って飲むしかないんだ。嫌なら良いけど、どうする?」
「うぐっ!?」
飲みたくないけど、飲まなければ。
いや、だが、これは明らか人の飲む物じゃない。
だけど、治すためには飲まないと……。
「さぁ、どうする?決めるのなら早い方が良いよ?長引けば長引くほど、辛くなるだけだよ?」
「あ、いや、その……俺は……」
飲む。飲まない。飲む。飲まない。飲む飲まない。飲む、飲まない。飲む飲まない。飲む飲まない飲む飲まない飲む飲まない飲む飲まないノムノマナイノムノマナイノマナイノマナイノマナイノマナイノマナイノムノマナイノマナイノマナイノムノマナイ―――。
ゴクッ
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