グラントさん、語る


「あ、あの。グラントさん」


ごく、ごく、ごく。


こちらが話しかけてもどうやらグラントさんはいちごジュースに囚われの身となり、こちらの声に気がついていない様子。


(おい、こいつ大丈夫か?)


コソコソと耳打ちをしてくるギル。

隠れていたみたいだが、あまりの様子に心配になって出てきてくれたらしい。


(多分、大丈夫じゃないかな。ほら、隠れてていいから)


私もこそっと返事をすると、ギルは少し躊躇った後にヒュンと姿をくらました。

ドン、とカップがテーブルに置かれ、グラントさんは取っ手を固く握りしめたまま震えていた。


「………………い」


「ど、どうしましたグラントさん!? まさかアレルギーとか!? 苦しくないですか、どこか痛むとか……」


「…………まい」


「まい、まい!? まいってどこの部位ですか、異世界語ですか!? 病名ですかそれは!? インスリンのような何かはこの世界にはありますか、出してください今すぐに!!」


「うまあああああああああああい!!!!!!」


「!?」


大声を上げて立ち上がるグラントさんと、逆にひっくり返る私。

目をキラッキラさせたグラントさんが、腰を抜かした私にズンズンと詰め寄る。


「なんですか、このあまりにも美味しいジュースは!! 私は生まれてこの方19年、初めてこんなに美味しいものを食しました!!」


「え、えぇ……」


彼の力説は止まらない止まらない。

ものすごい早口でいかに素晴らしいか語り倒している。

あ、勝手にお代わり入れたぞこの人。


「果肉感の残るジュースは素朴なうまみを感じられながらも、鼻を抜ける香料が実に爽やか!!」


「あ、それ多分入れたハーブですね」


レモングラスっぽいハーブをギルが教えてくれて、甘みが強いからアクセントに一緒に煮てみたら爽やかな香りが相性抜群だった。

ほんの少し香る程度だけど、それを一瞬で見抜くとは。


「おそらくリモネ草でしょう、この特有の酸味を思わせる爽やかな香りが何ともいい。そして何と言っても〝ワイルドレッドベリー〟自体の旨み! ジュースにするだけで、こんなに甘みが増すとは」


リモネ草って言うんだ、それ。

メモメモ。


「そうなんですよ、砂糖不使用です」


うんうんと目の付け所のいいグラントさんに相槌を打つ。

日持ちはしないものの、砂糖を使わないのでカロリーも気にしない、体に優しいジュースなのだ。


「心なしか力が湧いてきた気がします、本当に素晴らしいものをありがとうございました。私がうっかり寝てしまったためにこれ以上長居できないのが残念ですが、今度ぜひまたお話を聞かせてください」


「あ、すみませんもうそんな時間でしたか。なら冷やしたジュース、一本持って行って道中でぜひ」


グラントさんは子供のように目を輝かせて恭しく瓶を受け取った。

さっき19歳って言ってたし、日本だと青年の年齢だし、なんかそうわかると急に庇護欲っぽいものが……


「いいんですか、ありがとうございます……!」


パァッと輝く笑顔に目がつぶれそうになりながらも、笑顔でドアまでご案内する。

身支度を整えてフードを被ったグラントさんは「あっ」と思い出したように振り返った。


「そうだ、クッキー」


「アッ!!」


しまった、クッキー!!

振り返った先にはカケラだけ残されたクッキーと空き袋がテーブルに置きっぱなしだ。


「……いつのまに召しあがられたんですか?」


「えっと……その……」


やばい、やばい、感想を求められてる。

グラントさんは穏やかな笑顔だ。

下手なことを言えない。嘘がバレてしまうかも。

流石に「妖精が全部食べちゃいました〜」とは言えないし。


「……ワシが」


「ワシ?」


「……白い、ワシが、クッキーを掻っ攫って行きました」


さっきクッキーをギルに食べられてしまった時に、視界の端にいた白いワシを思い出しながら、苦し紛れに誤魔化す。

誤魔化せてるのか、これ!?


「白い、ワシ……そうですか……」


グラントさんは私の絞り出した嘘を口の中で反復させ、笑顔のまま「それは、残念です」と頭を下げた。


「また買ってきます! 次はぜひ召しあがってください」


「は、はい、ぜひ!」


や、やった〜!! 乗り切れた!!

私って実は嘘つくの上手かったんだ!!

これで一安心。はーよかった。これでメンツは守られた。


グラントさんは停めてあった荷馬車の運転席にサッと乗り、また小声で何かを呟くと、手綱がふわっと宙に浮き、そのまま来た道を戻り走り出した。


「ミサトさん、ジュースをありがとうございます! それではまた次回もお願いします!」


「クッキーありがとうございました! おかえりお気をつけてー!!」


荷馬車が小さくなって見えなくなった頃、ギルがフワッと肩に乗って話しかけてきた。


「あいつ、何者なんだ」


「何者? お城の魔導師さんだよ。ギルだって何回か見てるし知ってるでしょう」


「ふーん」


ギルの目はどこまでも訝しげで、何でそんな表情をするのか分からなかった。

……あ!!


「ごめんギル、ギルの分のいちごジュース、グラントさんが飲んだので最後だ!!」


「な、なんだって〜〜〜〜!!!! おい、なんで止めてくれなかったんだよ!! オレの大好物なのに〜!!」


目にいっぱいの涙を浮かべて、ポコポコと私の肩を叩いてくる。

全然痛くないし、むしろ可愛い。


「ごめんごめん、クッキーを勝手に食べた反省だと思って。……もーごめん、意地悪言わないから! 明日作ってあげるからそれで許して」


「オレは! 今! 飲みたかったのー!!」


ブンブンと飛び回るギルに苦笑しながら、仕方がないなと首を振る。


「じゃあキッチンから籠持ってきて、今からいちご畑に行くから」


「そうこなくっちゃ!!」


さて、私も畑仕事用にエプロンやら何やら支度しないと。

暑いってグラントさん言ってたから、日焼けの帽子も必要かなって思ったけど……やっぱりそこまで暑くない気がする。


お貴族さんはやっぱりお外に出ないから、そう思うのかもなー。

そんなことを思いながら、私はギルの待つ家に帰った。


_______________________________________

次はグラントさんサイドの幕間的なストーリーです。能天気なミサトさんですが、実はとんでもないことに巻き込まれることになる……かもしれない。

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