グラントさん、黙る
グラントさんは何か吹っ切れたのか、以降はパクパクとそれは美味しそうにいちごを口に運ぶ。
……待て待て待て、全部食べる気この人!?
「グラントさん、すみません。その……」
せっかく気に入ってくれたのは嬉しいけど、さっきまで山盛りだったいちごが、あっという間に穏やかな傾斜の丘程度にまで減っている。
いちごジュースもジャムも作りたいから、これだと少ししか作れなくなってしまう。
私が申し訳ない顔をしているのにやっと気がついたグラントさんは、少し顔を赤くして小さな声で「申し訳ございません」と呟いた。
「あまりの衝撃に、つい手が進んでしまい……失礼しました」
「いいんですよ、それだけ気に入ってくださったってことですし」
……無理だー!! これだといちごジュース一本作るので精一杯だ!!
しょうがない、また明日いちごを収穫するか。
……くー、腰が痛いんだよ収穫は!!
文句を言っても仕方ないけど!!
異世界転移してからはや数ヶ月、どうやらやっと心を開いてくれたであろう相手に「あなたが食べてくれたおかげでジュースが作れなくなりました! ほんと残念!」とは言えない。
心の中で血の涙を流しながら、氷蔵庫にしまっていたいちごジュースを取り出す。
「あの、それって……」
「それ……ああ、〝氷蔵庫〟ですか? 氷の魔石を中に入れて、食べ物を冷やしてるんです。ほら、外に置きっぱなしだと痛んじゃうじゃないですか」
そうそう、魔石をくれたギルには本当に感謝だわ。
ご飯を目当てにうちに居座るようになったギルに、自分の出生やご飯を作る便利グッズなど話していたところ、「レイゾーコ、っていうのは無理かもだけど、箱を冷たくすることはできるぜ!」と世界がひっくり返るご提案をいただいた。
要は、精霊や魔物が縄張りにしているような魔素が濃いエリアには、それを長い時間溜め込んだ〝魔石〟というものがたまに生まれるらしい。
魔法の源でもある魔素は、魔石になるとどんな人でも簡単に魔法の恩恵に預かることができる。
もちろん、魔法の適性がないと言われた私も例外はない。大変ありがたい。
サイズやレアリティ(?)によって効果が異なり、魔素をたくさん取り込んだものはそれだけ長く魔法の効果が持続するし、物によっては永遠に魔法を使えるものもあるのだとか。
そういったものは精霊やエルフ、妖精に神のような存在として大切に扱われているそうな。
そんなありがたいものを私はギルから貰ってしまい恐縮していたところ「これはちょっと長めに使えるだけのやつだからいくらでもあげる」とのこと。
使用しはじめてから数ヶ月経っても全く効果は変わらないので、本当にありがたい。
今度また別の再現便利グッズを作る時にギルにお願いしよう。
力作の氷蔵庫の扉をパカパカ開閉しながら、「やっぱり便利ですよね〜夏場とか」と世間話をしていると、不自然なくらいシーンと静まり返った。
え、なにこの空気。
「あ、あの……グラントさん……?」
唖然としているグラントさんに恐る恐る声を掛けると、ハッと目を覚ましたように、パチクリと瞬いた。
驚いた表情で、テーブルに身を乗り出すように氷蔵庫を見つめる。
「これはすごい……こんな『氷魔石』、なかなか見ない。これはどこで……?」
あまりの食いつきように、なにやら素直に言ってはダメな空気を察した。
「あ、の。えーと……森の中で?」
とても苦しい嘘である。
その辺に転がってましたみたいな言い方だけど、流石に無理があったか。
「そう、ですか。森の中……あり得るな、この周囲一帯はかなり魔素溜まりもあるし、これだけ高品質な魔石があっても不思議では……」
なにやらぶつぶつと呟くグラントさんに、ほっと胸を撫で下ろした。
な、なんとか誤魔化せた……。
そのままもう話を軌道修正しよう。
「そ、それはもういいじゃないですか! ほら、グラントさん、ジュース飲みましょ」
瓶に詰めた真っ赤なそれをグラントさんの顔にグイッと押し付けるように見せると、少し思案したような顔をして「そうですね」とやっと腰を下ろしてくれた。
よし、うまくいった。
「さあ、どうぞ。自家製ワイルドレッドベリージュースです」
コップに並々と注がれたジュースに、グラントさんは心なしか嬉しそうだ。
「いただきます」
もう先ほどのように真っ青になることもなく、迷いなくジュースを口にした。
ごく、ごく、ごく。
喉仏が上下に動くのを、じっと見つめる。
いや、だって怖いよ、そう言えば自分が作ったものを食べてもらうのを見るの、ギル以外だと初めてだもん!
美味しくないわけはないと思うけど、それでもやっぱり不安だ。
ごく、ごく、ごく。
…………長くない?
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