昨日の騒ぎ
看護師は、自分で昨日の騒ぎとやらを思い出して、ずいぶんと苛立っているようだった。
「何があったんですか?」
おずおずとうかがう高崎を看護師がギロリと睨む。
「本当、最低なんです。妹島さん、突然暴れ出して!」
「暴れ出した?」
「ええ。突然暴れ出して、隣のベッドの人を殴ったんです。それで鎮静剤を打って大人しくさせて、部屋を個室に移動させたんです」
ただでさえ忙しいのに、本当嫌になる。と、看護師は愚痴を言う。
「暴れたんだ」
ナイフと一緒に運ばされたあの粉薬のせいだろうか。と、高崎は首をひねる。
「じゃあ、あれは睡眠薬じゃなかったのか……」
「何かおっしゃいましたか?」
「いえ……別に」
看護師に妹島が暴れる原因になる物を運んだのが高崎だとバレるのは困る。
高崎は、粉薬のことを看護師には言わなかった。
「それで今も眠っているんですか」
「いえ、もうとっくに起きていい時間なんですが……、疲れてたんですかね? 寝ていてもらった方が助かります」
いい加減だなぁ……。そう言いかけて高崎は黙る。
ここで妹島を起こされても何も良いことはないはずだと判断したのだ。
なのに……。
「あら、放っておいて良いんですか? 怠慢ですね」
「ちょっと! 紗栄子さん!」
高崎は慌てる。
目の前には、紗栄子の言葉に、絵に描いたような青スジを立てて腹を立てている看護師。
「起きないなんて変じゃないですか。ここ、病院でしょ? だったら調べないんですか?」
「もう夜中ですしね。寝てるの当然じゃないですか」
「ですよね〜。夜中ですよね」
高崎は、何とか看護師の機嫌を取ろうとする。
「でも、夜中だからこそ、何かあったら困るじゃないですか!」
「血圧や呼吸の有無、体温などのチェックはしています! 何なんですか? 忙しい時に来て、文句ばかり! お帰りください!」
「ええ、そうします! ですが、ちゃんと見張ってください! 眠り続けてるなんて異常なんですから! 何かあったら大変です!」
「言われなくともそうします!」
看護師に怒鳴られて、高崎はまだ言い返そうとする紗栄子を引っ張って、エレベーターに乗った。
「どうするんですか。看護師と喧嘩して……」
妹島を連れて教会まで行かなければならないはずである。
看護師を焚き付けてしまえば、高崎も紗栄子も顔を覚えられて、その機会を失ってしまうだろう。
妹島は、紗栄子の行動の意味が分からずため息をつく。
「いいんです。これで」
「はぁ?」
「こうやっておけば、もし今後妹島が殺されても、私達が犯人ではないことは明確になるじゃないですか」
「確かに、あれだけ看護師に喧嘩売ったんですから、管理は厳しくなるでしょう。もしこの後で妹島先輩が殺されたとしても、俺達が病院に来ていなかったことは、明確ですが……どうするんですか? これで妹島先輩を連れ出せなくなりましたよ?」
仁子を助けるためには、妹島を連れ出さなければならないはずだ。
妹島を教会へ連れて来なければ、仁子の命はどうなるか分からない。
「仁子のためです。妹島が生きている限り、犯人に仕立て上げたい私達を殺すわけないでしょう?」
「まぁ……確かに」
「そして、私達を従わせるには、仁子を生かしておかねばならない。仁子を殺されて、私が奴らの言いなりになるわけがないので」
「じゃあ……」
「反撃よ」
紗栄子の目は、ギラギラと輝いていた。
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