第12話 エルフの少女

 森の奥から、魔力のうねりが吹き抜けた。リリアが思わず身をすくめるほどの衝撃。俺は、体は少年アルトだが——すぐに剣を抜いた。


「魔族だ。しかも、かなりの手練れだ」

「どうするの? 避けて通る?」

「いや、誰かが戦っている。放ってはおけない」


 木々をかき分けて進むと、そこには銀髪の少女がいた。長い耳がエルフの証。彼女は一人、巨大な魔族と対峙していた。魔族は黒い甲殻に覆われ、四本の腕を持つ異形。彼女は魔法陣を展開し、炎の矢を連射していた。


「ファイア・スパイラル!」

 炎が螺旋を描いて魔族に襲いかかるが、魔族は腕を盾のように構え、炎を弾き返す。地面が焦げ、煙が立ち上る。


「くっ……効かない……!」

 魔族が咆哮を上げ、地を蹴って突進する。エルフの少女は瞬時に後方へ跳び、次の魔法を詠唱する。


「ウィンド・バインド!」

 風の鎖が魔族の足を絡め取るが、力任せに引きちぎられる。魔族の爪が肩をかすめ、少女の血が飛び散る。


 その瞬間、俺は闘いの中に飛び込んだ。剣を一閃、魔族の四本の腕を切り落とした。


「下がってろ。ここからは俺がやる」

「あなたは……?」

「ただの通りすがりの剣士だ」


 魔族はひるまず突進してくるが、俺は一歩踏み込み、剣を振るった。空気が裂け、魔族の体が地に伏した。ゆっくりと黒い塊は消えていった。

 少女は呆然と立ち尽くしていたが、やがて小さく頭を下げた。


「助けてくれて、ありがとう。私はエマ。魔法使いの修行中で、王都を目指しているの」

「奇遇だな。俺たちも王都へ向かっている。よければ一緒に来るか?」


 ヒール魔法で自分の肩を治療していたエマは少し迷った顔を見せたが、うなずいた。

「……うん。何より、あなたの剣技をもっと見てみたい」


 リリアが微笑む。

「仲間が増えたね。賑やかになるのは、悪くないかも」


「うむ」

「うむ?」

 リリアがけげんな顔をした。

「あ、いやあの……ちょっとカッコよく言おうとしただけだからさ」

「ふーん。なんかアルト、やっぱりちょっと変になってるよね。剣も強すぎだし」

「あ……それは前も言った通り……」

「なんか怪しいなあ」

「そんなことないよう……」

 俺は一生懸命、少年の口調でごまかした。


「ふふふ、お二人、仲がいいんですね」

 エマがほほ笑んだ。


「あはは……」

「私たち、幼馴染だし。ね、アルト」

「え? あ、ああまあ……」


 森を抜けた三人の背を夕陽が照らす。王都への道はまだ遠い。


(アルノさん、少し優しくなりましたね)

(……そうか? お前の影響かもしれんな)

(ふふ、だったら嬉しいです。でも口調に気を付けてくださいね)

(う……それは言わんでくれ)

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断罪の剣聖と復讐の少年 灰色鋼 @omrice

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