第32話

「光姫、外に今朝丸けさまるさん来てる。」


「うん、知ってる。」



窓の外にみえる黒塗りの車。



パパの秘書、今朝丸さんの車だ。 


  

「光姫の結婚相手じゃない?」


「今朝丸さんが?年齢10も離れてるよ?」


「てかなんで結婚相手知らないの?」   

 

「顔合わせブッチしたから。」

 

「やるねえ。」



今年の4月、私が17才になったばかりの頃。初顔合わせだとかなんとかいって用意された懐石庭園での席を私はブッチした。



私は自分が恋した人にしか靡かないし、結婚だって好きな人じゃなきゃ嫌だ。反抗期真っ盛りの私は、私の決められた未来を全力で否定した。




 

仕方なく裏門から出れば、当然のようにパパの秘書、今朝丸さんが車から降りてきた。



「お帰りなさいませ。遅かったですね。」


「園宮初芽と図書委員の仕事。」


「総合病院の御子息ですか。それは無下にできませんね。」  



後部座席のドアを開けられて、俊敏に乗り込む。図書委員の仕事をしていたお陰で、この時間に裏門から下校する生徒はいない。



「今朝丸さん、学校には来ないでって言ったじゃん。」 

  

「光姫さんが社長の電話に出ないのが悪いんです。」


「うちには帰ってこないような父親を父親だとは思いたくないんですぅ。」


「その父親から生活費をせしめておきながらよくそんなことが言えますね。」


「あはは言い方わっる〜。」



この今朝丸けさまる真吾しんごという男は、パパの犬にして、やたら私の様子を見に来る堅物糞眼鏡。



私のパパは、国内最大手、医療機器メーカー『フォープラント』の社長。でも私はママと二人きりでマンションで暮らしているの。



うちのママは、いわゆるめかけってやつ。またの名を第二夫人、愛人。



本妻には二人の息子がいて、妾であるママには私という一人娘がいる。



本妻の息子ちゃんたちは名門校を卒業し、立派にエリート街道を進んでいる。



妾の娘である私は、庶民的な公立高校に通って自由気ままな生活をしている。はずだったのに。



世間体を気にするパパ方のお婆ちゃんが、私の結婚相手を勝手に決めてしまったのだ。

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