第1話(2) 青空とバイク

愛車のCBR1000RRにまたがり、エンジンをかける。

シートの感触と振動が、彼の心を落ち着かせた。


「……よし、行くか」


アクセルを軽くひねると、車体が滑るように走り出す。

風が頬を撫でる感覚は、何よりの解放感だった。


バイクに乗る瞬間だけは、自由だった。

仕事の疲れも、生活の悩みもすべて忘れられる。

疾走する速度だけが、自分を生かしていると感じさせてくれた。


道沿いには新緑が揺れていた。

視界いっぱいに広がる青空はどこまでも澄み渡り、まるで世界が祝福しているかのようだった。

「最高のツーリング日和だな」

彼はそう呟き、少しだけアクセルを強くひねった。


次の瞬間――。


視界が、回転した。


「……え?」


横道から突然、黒い軽自動車が飛び出してきた。

ブレーキをかけるよりも早く、体が宙に投げ出される。


「あっ――!」


ドンッ!!!

激しい衝撃が全身を襲った。

アスファルトに叩きつけられ、体が跳ねる。

ヘルメット越しに聞こえる鈍い音が、自分の骨が折れる音だと気づいたのは、数秒後だった。


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