ZERO外伝『均衡なき抑止の果てに』 第二幕:影の審判
世界が静寂に包まれる瞬間がある。 それは、あまりにも不穏な沈黙で。
かつて核を落とされた国。 その恐怖を他国に味あわせぬために武装した国。 覇権を維持するため、核を手放さぬ国。 生存のため、核を渇望する国。
すべてが正義を名乗り、 すべてが抑止の名のもとに、 自らの引き金を光と信じた。
だがその手に握られたものは、 この星の心臓すら穿つ“神殺しの鍵”だった。
ある朝。世界各国の中枢に、 一斉に届いた黒い封筒。 署名も、宛名も、何もない。 だが、見た瞬間に分かる者たちには分かった。
その紙には、こう書かれていた。
あなたが守るという平和は、 いくつの引き金の上にある?
ZERO
驚くほどの静けさの中で、最初の異変が起きる。
核保有国と疑われる五つの国で、 主要なミサイル基地が一時的に封鎖され、 発射コードが無効化される事態が発生。
監視カメラ、電子制御、暗号認証。 どれ一つ破られた形跡はない。 だが、誰も起動できなかった。
技術者は語る。 「不具合ではない。誰かが、最初から“鍵”を持っていた」
次いで各国の最高指導者の側近が、 いずれも共通の報告を提出する。
「主席(または首相)が、所在不明です」
姿を消した。 それが、自発的なものか、強制されたものか。 それすら分からない。
ある者は執務室にいた。 ある者は核施設の視察中だった。 またある者は、国際会議に臨む直前だった。
まるで世界の中心から、 “引き金を引ける者”がごっそりと消えた。
だが、ニュースは報じない。 いずれの国家も「健康上の理由」「一時的な職務離脱」と発表し、 強硬な報道管制が敷かれた。
だがネットは知っている。 世界は感じている。
――“何かが起きた”と。
同時多発的に発生した不可解な異変。
しかし、証拠はどこにもない。 犯人も、被害も、明確ではない。 だから事件にはならない。 だが、すべての首脳が共通して受け取っていた。 あの言葉を――
あなたが守るという平和は、いくつの引き金の上にある?
ZEROはそこにいた。 気配も、姿も、名もないままに。
平和の“抑止”という名で、 数千万の命を“想定内”と計算する者たち。 その者たちの目を、指を、意思を。 静かにこの世界から、取り除いた。
何も壊さず。 何も燃やさず。 だが確かに、 “引き金”はもう誰にも、引けなくなった。
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