第21話

ガタン


唐突に大きな音がした。


広輝は現実に戻りその音の方を見た。



前に座っていた女性の膝に置かれていた荷物が電車の揺れで床に落ちた。







「・・・すみま、せん」



小さく弱々しい声が聴こえた。


彼女は誰に言うでもなく恥ずかしそうに言うと、荷物を拾い集めた。



(雨宮みたい・・・)




中学時代を思い出していたせいだろうか。

隙の無さそうな彼女の失態が微笑ましくつい、頬が緩んだ。


彼女が座り直す時、ふと目が合った。


口角が上がっていただろう、広輝と目が合うと恥ずかしそうにパッと下を向いてしまった。





斜め向かいに座る中学生がまた、会話を始めた。


「それで、ユイがさぁ・・・」



まだ若干顔が紅潮している彼女が慌てた様にそちらを向いた。



(え・・・?)



中学生はそんな彼女に気付きもせず話を続けている。


彼女は恥ずかしそうに下を向いた。



(今のって・・・)



『ユイ』という単語に反応した様に見えた。






(まさか、な。)



中学時代を思い出していたせいだろう。


一瞬期待にも似た感情を持ってしまった自分を一蹴し、再び手元の文庫に目を落とした。

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