第10話
中学3年生になった春。
クラスが変わり一番最初の席替が行われた五月の連休明け。
特に仲の良い友人とは近くにならず、けれど後方窓際の席に密かに広輝は喜んでいた。
「あ・・・」
小さく弱々しい声が隣から聞こえた。
隣になった女の子はクラスの中でも大人びていて、綺麗な子だった。
雨宮唯子。
彼女はよく、学級委員等の仕事を任されていて、少しだけ目立つ存在だった。
当時、女の子と話すタイプでは無かった広輝。
自分とは世界が違う存在に、思えた。
そんな彼女が鞄の中を探りソワソワとしている。
何があったのだろうと暫く横目で見ていたがよくわからない。
(まぁいいか。)
視線を窓に移そうとしたその時だった。
「・・・野原、くん。」
小さく唯子が広輝の苗字を呼んだ。
「・・・何?」
広輝は驚いた。
まさか話しかけられるとは思っていなかった。
「あの・・・」
呼んだ割に言いにくそうに恥じらう彼女の机を見て気が付いた。
有るべきものが、無い。
「教科書忘れたの?」
「・・・うん」
「・・・見る?」
唯子は恥ずかしそうに笑ってありがとう、と言った。
「曜日、間違えてたみたい・・・」
その恥らった笑顔が美人、と言うより可愛いと思ったのを、広輝はよく覚えている。
しっかり者だと周りから思われていた唯子。
しかしその実はとんでも無くウッカリした性格な事に隣の席になりすぐに気付いた。
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