第33話
「りっくん……」
「空が帰ってくるから、俺はもうお前の傍にはいれないんだ」
りっくんは私の首筋から手を離し、その瞬間冷たい空気に晒された。
りっくんは私の明るく染められた長い髪を梳くように掬う。
そうしてとても哀し気に、見たこともない大人びた表情で微笑んだ。
「桃子に泣かれたら、俺は離れたくなくなるから……言えなかった……」
そして、今度は私の髪にそっと口づけをした。
「桃子。元気で」
そうして彼は立ち上がった。
知らない男の人みたいに、彼は私に背を向けた。
――りっくん待ってよ!
幼い頃の様に、無邪気にその背中を引き留める事はもう、二度とできない。
――おせーよ桃子。
意地悪を言いながらも絶対に待ってくれていた彼が、私の声に足を止めることももう、二度とない。
あの手に触れる事も、一緒に歩く事も、もう二度とない。
大切な、私の半身だった男の子……
いつの間に私たちは離れてしまっていたんだろう。
――……俺で、いいの?
――私は、そうちゃんがいいの……
ああそうか。
先に手を離したのは、私だったんだ……
そうちゃんを選んだ時、私はりっくんの手を離していたんだ……
「……ごめんね」
静かに冷たい涙が頰を伝い、私はりっくんの姿が見えなくなるまでその背中を見つめていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます