第32話
やっと視線を合わせる事ができたりっくんは本当に泣きそうな顔をいていた。
この顔を見るまで、私はどこかで期待していた。
心のどこかでこれはいつも通りの喧嘩に過ぎないと思っていた。
この顔を見なければ、私は夢を見続けることができたかもしれない。
りっくんと、いつかまた、昔のように戻れるって……
りっくんの表情に私は本当に理解してしまった。
りっくんはもう、本当に私から離れていってしまうつもりなんだと。
これが、最後なんだと……
だから私はりっくんから目が離せなかった。
彼の姿を、その瞳の色を、その仕草の全てを、見逃すことのないように……
忘れてしまうことの無いように……
空から細かい雪が静かに降っていた。
りっくんの明るい鳶色の髪に、白い粉雪が舞い落ちる。
綺麗だな、と場違いなことを思った。
りっくんは私の頬に片手を添えた。
ひやりと、指先の冷たさが頬を伝った。
小さな頃はいつも繋いでたりっくんの右手が、私の頬を包み込む。
いつの間にこんなに大きくなっていたんだろう。
もう片方の手は、ブレザーのポケットに入れたままだ。
まるで、心の内を隠すかのように。
りっくんは頰に触れていた手をそっと、まるでガラス細工を扱うみたいにそっと、私の後ろ首に移動させて少しだけ力を入れた。
促される様に僅かに私の上体はりっくんに傾く。
涙は浮かんでいない。けれど泣いている様に見える、彼の黒い瞳がまぶたで遮られる。
頰に落ちた長い睫毛を私はじっと見つめていた。
そして、そっと……
冷たい彼の唇が私の唇に、掠れるように触れた……
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