カーナビ

ゆったり虚無

「まもなく、目的地、周辺です。」

 ここで話すのは友人から聞いた話である。

仮にその友人をJとしよう。

Jは近畿地方のとある場所へ営業に来ていた。

慣れない場所ということもあり、Jは普段以上に時間を要しつつ仕事をこなしていた。

至極真面目で慎重な彼は、最後の一件を終えるころには空は夕闇にすっかり覆われていた。


 適当な店で食事をとったJは少し仮眠をとり夜中にこの町を出発しようと考えた。

夜中の方が道路が空いており、早く帰ることが出来るだろうと考えたからである。

Jは予定通りことを進めるため近くのコンビニに車を止め、仮眠をとることにした。


 目を覚ましたJは寝ぼけまなこをこすりながらあたりを見渡した。

J以外の車はなく外は真っ暗であったため、Jだけが世界に取り残されたような気分だった。

時間は2時過ぎ。

コンビニを見ると煌々と窓ガラスが光っており、中の様子を見ることはできない。

Jはカーナビに目的地を入力し、車を走らせることにした。

月が出ていないのか道は暗く、光源は車のライトと街灯のみであった。


 車を走らせること1時間。

Jはカーナビが示すルートを走らせていた。

周囲はいつの間にか住宅街から木々へと変わっていた。

Jは不思議に思いながらも山道を走っていた。

カーナビの指示に従い車を走らせているが、どこに向かっているかが分からないのだ。

Jは改めてカーナビに目的地を入力した。

カーナビは温かみのない女性の声で目的地を読み上げる。

再度ルートが表示されるが、依然変わりなく、青い線は山道を示していた。

Jは疑問に思いつつも山道を走らせた。


「まもなく、目的地、周辺です。」


抑揚のない女性の声がそう告げる。

Jは驚いた。

まだ自宅のある県にも着いていないのだ。

Jは再度ルートを入力した。


「まもなく、目的地、周辺です。」


入力した瞬間、カーナビはそう告げた。

怖くなったJが車を止めようと思い、目を前へ向けた。

瞬間、頭が真っ白になった。

目の前の一本の木に、人が首を吊っていた。


「目的地到着です。お疲れさまでした。」



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